この記事でわかること
- 共分散の意味と、符号(正負)が示す2変数の関係
- ExcelのCOVARIANCE.S・COVARIANCE.P関数での計算手順
- 共分散から相関係数を求める方法(r=共分散÷標準偏差の積)
📌 前提知識:標準偏差・分散の求め方を読んでいると理解しやすくなります
焼成炉の温度を少し上げると、収率も心なしか上がる。現場ではそんな感覚を持っている人が多いものです。ですがそれは「なんとなく」の話であって、2つの数値が実際に一緒に動いているかどうかは、感覚だけでは判断できません。
そこで使うのが共分散です。2つの変数が同じ方向に動く傾向にあるのか、逆方向に動く傾向にあるのかを、符号ひとつで表してくれます。この記事では共分散の求め方と、そこからおなじみの相関係数を導く方法まで、焼成温度と収率の例題で整理します。
共分散を使う場面
共分散が効いてくるのは、次のような場面です。
- 2つの数値が一緒に増減する傾向があるかを確かめたいとき(温度を上げると収率も上がるか)
- 相関係数がどう導かれるかを自分の手で確認したいとき
NG例(△): 共分散の値そのもので「関係の強さ」を比較したい場合には向きません。共分散は元のデータの単位に依存するため、mmと℃のように単位が違う組み合わせ同士を比べても、大きさに意味がありません。強さを比べたいときは、単位に依存しない相関係数を使います。
共分散とは|符号が示す2変数の関係
共分散は、2つの変数 \(X\), \(Y\) がそれぞれの平均からどれだけずれていて、そのずれ方が揃っているかを表す指標です。標本の共分散は次の式で求めます。
\[\text{Cov}(X,Y) = \frac{\sum(x_i – \bar{x})(y_i – \bar{y})}{n-1}\]
Excelでは標本用のCOVARIANCE.S関数が対応します:
=COVARIANCE.S(X範囲, Y範囲)
手元のデータが工程全体(母集団)そのものなら、\(n-1\) ではなく \(n\) で割るCOVARIANCE.P関数を使います:
=COVARIANCE.P(X範囲, Y範囲)
読み方はシンプルです。
- 正の値:Xが増えるとYも増える傾向(同方向)
- 負の値:Xが増えるとYは減る傾向(逆方向)
- 0に近い値:直線的な関係は弱い
符号が決まる理由は、式の中身にあります。XとYがどちらも平均より大きい(または小さい)データ点では、偏差の積は正になります。逆にXは平均より大きいのにYは平均より小さい、といったちぐはぐな点では積が負になります。この積を全データで足し合わせるので、多くの点が同じ方向にずれていれば正、逆方向にずれていれば負に傾きます。
例題|焼成温度と収率の共分散
焼成炉の設定温度(℃)と、そのときの収率(%)を5ロット分測定しました。
| ロット | 温度 X(℃) | 収率 Y(%) | X偏差 | Y偏差 | 偏差の積 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 180 | 91 | −10 | −4 | 40 |
| 2 | 185 | 94 | −5 | −1 | 5 |
| 3 | 190 | 95 | 0 | 0 | 0 |
| 4 | 195 | 96 | 5 | 1 | 5 |
| 5 | 200 | 99 | 10 | 4 | 40 |
Xの平均は190℃、Yの平均は95%です。偏差の積を合計すると 40+5+0+5+40 = 90。標本の共分散はこれを \(n-1=4\) で割った値です。
\[\text{Cov}(X,Y) = \frac{90}{4} = 22.5\]
Excelなら =COVARIANCE.S(B2:B6,C2:C6) で22.5が返ります。正の値なので、温度を上げると収率も上がる傾向があると読めます。母集団としての共分散(÷5)なら =COVARIANCE.P(B2:B6,C2:C6) で18です。
共分散から相関係数を求める
共分散だけでは「関係の強さ」が分かりません。22.5という値が強い関係なのか弱い関係なのか、単位付きの数字のままでは判断できないためです。そこで、共分散をXとYそれぞれの標準偏差で割って、単位を消したものが相関係数です。
\[r = \frac{\text{Cov}(X,Y)}{\sigma_X \sigma_Y}\]
温度の標準偏差(標本)は =STDEV.S(B2:B6) で約7.906、収率の標準偏差は =STDEV.S(C2:C6) で約2.916です。これを式にあてはめます。
\[r = \frac{22.5}{7.906 \times 2.916} \approx 0.976\]
単位が消えるため、rは常に−1〜+1の範囲に収まります。今回のr≈0.976は、かなり強い正の関係を示す値です。Excelならこの計算をまとめて行うCORREL関数(またはPEARSON関数)が使えます:
=CORREL(B2:B6,C2:C6)(結果は同じく約0.976)
r自体の大きさをどう解釈するかは相関係数の読み方|強弱の目安で、複数の特性の相関をまとめて見たいときは相関行列の作り方で解説しています。
よくある質問
Q. 共分散がゼロなら、2つの変数は無関係と言えますか?
ゼロに近いとしても、直線的な関係が弱いことを示すだけで、無関係と言い切ることはできません。共分散も相関係数も直線的な関係しか捉えられないため、U字型など非直線の関係があっても値が小さくなることがあります。散布図で形を確認することが欠かせません。
Q. 共分散と相関係数、どちらを先に計算すべきですか?
実務ではCORREL関数で相関係数を直接求めれば十分です。共分散を経由する必要はありません。ただし相関係数がどう導かれるかを理解したいときや、共分散そのものが必要な場面では、COVARIANCE.SやCOVARIANCE.Pを使います。
Q. COVARIANCE.SとCOVARIANCE.Pはどちらを使えばよいですか?
手元のデータが母集団全体ならCOVARIANCE.P、一部を抜き取った標本ならCOVARIANCE.Sを使います。標準偏差のSTDEV.S/STDEV.Pと同じ使い分けです。製造業の実務データはほとんどの場合「工程全体からのサンプル」なので、COVARIANCE.Sを使う場面が多くなります。
Q. 測定の単位を変えると、共分散の値も変わりますか?
変わります。たとえば温度を℃からKに換算しても、寸法をmmからcmに換算しても、共分散の値は変わってしまいます。これが共分散だけで「関係の強さ」を語れない理由です。単位を変えても値が変わらない相関係数のほうが、強さの比較には向いています。
まとめ
- 共分散=2変数が同じ方向に動くか逆方向に動くかを表す指標。正なら同方向、負なら逆方向
- Excel:標本は
=COVARIANCE.S(範囲1,範囲2)、母集団は=COVARIANCE.P(範囲1,範囲2) - 共分散は単位に依存するため、関係の「強さ」の比較には使えない
- 強さを比較したいときは相関係数 r=Cov÷(σx×σy) を使う。Excelなら
=CORRELで直接求まる
共分散は関係の「向き」、相関係数は関係の「向きと強さ」を表す。この違いを押さえておくと、どちらの関数を使うべきか迷わなくなります。標準偏差そのものの求め方は標準偏差・分散の求め方で解説しています。さらに体系的に学びたい方向けに、レベル別のおすすめ書籍を統計学・実験計画法のおすすめ本まとめで紹介しています。


