この記事でわかること
- 公差(規格幅)と標準偏差を結びつける考え方(工程能力指数)
- 「Cp1.33を満たすにはσをいくつ以下にすべきか」の逆算手順(Excel対応)
- 規格ぎりぎりの工程で起きることと、公差見直しの論点
📌 前提知識:標準偏差・分散の求め方を読んでいるとスムーズです
設計から「この寸法の公差は±0.15mmで行く」と連絡が来た。製造側として答えるべきは「うちの工程のばらつきで、その公差を安定して守れるか」です。ところが公差はmm、工程の実力はσ(標準偏差)で語られるため、この2つを結びつけられずに「たぶん大丈夫」で流してしまうケースが少なくありません。
公差とσをつなぐ橋が工程能力指数です。この記事では、公差から「必要なσ」を逆算する手順を例題で解説します。量産前の工程検討や、設計との公差交渉の根拠づくりにそのまま使えます。
この逆算を使う場面
- 新規品の公差に対して、既存設備で対応できるか事前に判断したいとき
- 工程改善の目標値(σをいくつまで下げるか)を数字で設定したいとき
- 設計に公差緩和を相談する際、根拠となる数字が欲しいとき
前提条件も確認しておきます。この計算は、データが正規分布に従い、工程が安定している(管理状態にある)ことが前提です。また両側規格(上限と下限の両方がある)を想定します。片側規格しかない特性では式が変わるので注意してください。
公差とσをつなぐ式|規格幅は何σ分か
公差 T(規格幅 = USL − LSL)と工程の標準偏差 σ の比が、工程能力指数Cpです。
\[C_p = \frac{USL – LSL}{6\sigma} = \frac{T}{6\sigma}\]
Excelでは =(USL-LSL)/(6*STDEV.S(データ範囲)) で計算できます。
この式は「規格幅の中に、ばらつきの幅(6σ)が何回入るか」を表しています。Cp=1.00なら規格幅ちょうど6σ、合格基準とされるCp=1.33なら規格幅が約8σに相当します。つまり「公差の中に8σ分の余裕があるか」が実務の目安です。Cp1.33の根拠(±4σ・不良率約63ppm)は工程能力指数の目安一覧で詳しく解説しています。
例題|公差±0.15mmに必要なσを逆算する
シャフト外径の規格が 50.00±0.15mm(T = 0.30mm)だとします。目標Cp=1.33を満たすσの上限は、Cpの式をσについて解けば求まります。
\[\sigma \leq \frac{T}{6 \times C_p} = \frac{0.30}{6 \times 1.33} = 0.0376 \, \text{mm}\]
Excelなら =0.30/(6*1.33) → 0.0376 です。ざっくり覚えるなら「必要σ ≒ 公差幅 ÷ 8」(0.30 ÷ 8 = 0.0375)で、ほぼ同じ値になります。
次に、現状の工程実力と比べます。既存工程のσが0.05mmだったとすると、
\[C_p = \frac{0.30}{6 \times 0.05} = 1.00\]
Cp=1.00は「規格幅ちょうど6σ」で余裕ゼロ。平均が少し動くだけで不良が急増する水準です。この工程で±0.15mmを受けるなら、σを0.05→0.0376mm以下へ約25%低減する改善が必要、という具体的な目標が立ちます。
| 目標Cp | 必要なσの上限(T=0.30mm) | 覚え方 |
|---|---|---|
| 1.00(最低限) | 0.050 mm | 公差幅 ÷ 6 |
| 1.33(合格基準) | 0.038 mm | 公差幅 ÷ 8 |
| 1.67(余裕あり) | 0.030 mm | 公差幅 ÷ 10 |
注意点|平均のずれと公差の妥当性
ここまでの計算は「平均が規格中心にある」前提のCpベースです。実際の工程では平均が中心からずれるので、評価はずれ込みのCpkで行います。σが目標を満たしていても、平均が偏っていれば不良は出ます。CpとCpkの使い分けは工程能力指数(Cp・Cpk)の計算を参照してください。
逆算の結果「必要σが現実的に達成不可能」と分かることもあります。その場合の選択肢は2つで、①ばらつき低減の工程改善(Cp・Cpk改善の手順)、②設計への公差緩和の相談です。②は逃げではなく、「その公差は機能上本当に必要か」を設計とすり合わせる正当な工程設計活動です。このとき「現状σ=0.05なので±0.15mmではCp1.00にしかならない。±0.20mmならCp1.33を確保できる」と数字で話せると、交渉が具体的になります。
なお、ばらつきの評価そのものを複数工程で比較したい場合は、単位に依存しない変動係数(CV)という切り口もあります。
片側規格の場合|式が変わる
ここまでは両側規格の話でした。強度(下限のみ)や異物量(上限のみ)のように規格が片側しかない特性では、Cpは定義できず、片側の工程能力指数を使います。上限規格のみなら次の式です。
\[C_{pkU} = \frac{USL – \bar{x}}{3\sigma}\]
Excelでは =(USL-AVERAGE(範囲))/(3*STDEV.S(範囲)) で計算します(下限規格のみなら分子を \(\bar{x} – LSL\) に)。
必要σの逆算も「平均と規格の距離を何σ確保するか」で考えます。目標1.33なら距離4σが必要なので、必要σ ≦(規格と平均の距離)÷ 4。たとえば下限規格400MPaで平均420MPaなら、σは (420−400)÷4 = 5MPa以下が目標になります。片側規格では「平均をどこに置くか」も同時に設計変数になる点が両側との違いです。
現場のミニ事例|数字が公差交渉を動かした
切削部品の新規受注で、図面公差が±0.10mm(T=0.20)で提示された場面です。既存設備の実力はσ=0.04mm。逆算するとCp=0.20÷(6×0.04)=0.83で、受けたら選別前提の赤字工程になるのは明白でした。
そこで「現状σ=0.04では±0.10はCp0.83。±0.15mmならCp1.25、±0.16mmでCp1.33を確保できる」と数字で設計部門に提示したところ、機能検討の結果、その寸法は±0.15mmで問題ないことが判明。公差1本の緩和で、選別コストも新規設備投資も不要になりました。「できません」ではなく「この公差ならこの能力」と示すのが、σを逆算しておく実務価値です。
よくある質問
Q. σは全データの標準偏差とR̄/d₂のどちらを使う?
A. 事前検討や公差交渉の概算なら、手元データの標本標準偏差(STDEV.S)で十分です。正式な工程能力の報告では、管理図とセットで群内ばらつき(R̄/d₂)から求める方法が使われます。どちらを使ったかを明記しておけば混乱しません。
Q. 「公差÷8」はどんな場合でも使える?
A. 両側規格・正規分布・工程が安定、の3条件がそろったときの目安です。片側規格では上で説明したとおり「距離÷4」に変わります。また分布が歪んでいる特性(真円度・平行度など0が下限の形状公差)には、そのまま適用できません。
Q. 逆算したσ目標をどう改善につなげる?
A. σの目標値が決まったら、現状σとのギャップを要因分解します。測定誤差・設備・材料・条件のどこがσを支配しているかを特定してから対策する流れで、進め方はCp・Cpk改善の手順にまとめています。
まとめ
- 公差とσをつなぐのは工程能力指数: Cp = 公差幅 ÷ 6σ
- Cp1.33を満たす必要σは「公差幅 ÷ 8」が目安(±0.15mmなら σ ≤ 0.038mm)
- Cp1.00(公差幅=6σ)は余裕ゼロ。改善目標はσの数値で設定する
- 実際の合否判定は平均ずれ込みのCpkで。平均の管理もセット
- 達成不能なら、ばらつき改善か公差の妥当性見直しを数字を根拠に検討する
「規格を守れるか」は感覚ではなく、公差÷8とσの比較で答えられます。ばらつきの現状把握は標準偏差の求め方、目安の全体像は工程能力指数の目安一覧をあわせてご覧ください。


