この記事でわかること
- ブロックゲージの役割と、K級・0級・1級・2級の考え方
- 103個組から欲しい寸法を作る組み合わせ方と、枚数が増えると誤差がどうたまるか
- 密着(リンギング)の手順と、手の熱で長さが変わる量
📌 前提知識:ノギスとマイクロメーターの読み方|目盛と測定誤差を読んでいると理解しやすくなります
マイクロメーターの日常点検で、「48.375mm のブロックゲージで確認すること」と手順書に書いてありました。ケースを開けると、大小100個ほどの金属のブロックがきれいに並んでいます。48.375mm という1個はどこにもありません。
ブロックゲージは、何個かを重ねて欲しい長さを作る長さの基準器です。重ね方にはコツがあり、枚数の選び方や手の熱しだいで、基準の値が1µm近くずれることもあります。この記事では、等級の考え方から始めて、組み合わせ方と誤差の積み上げ、密着の手順と温度の影響までを、計算の例で確かめます。
ブロックゲージを使う場面
ブロックゲージは、2つの面を平らかつ平行に仕上げ、その間の距離(厚さ)を決まった寸法に正確に作った直方体のブロックです。現場では、長さの「ものさしのものさし」として次のような場面で使います。
- 測定器の点検・校正をするとき。マイクロメーターやノギスでブロックを測り、表示がブロックの寸法と合っているかを見ます
- 比較測定の基準にするとき。ダイヤルゲージやハイトゲージを、部品と同じ高さに組んだブロックでゼロに合わせてから部品を測ります
- 治具や工作機械の高さ・すき間を合わせるとき。決まった寸法のスペーサーとして使います
どの場面でも、ブロックゲージの寸法は「正しい」として扱われます。だからこそ、ブロックの等級・組み方・温度を誤ると、その誤差が測定器や部品の判定にそのまま移ります。
ブロックゲージのセットと等級
セットの種類
ブロックゲージは、スウェーデンのヨハンソンが19世紀の末に作ったのが始まりです。寸法の違うブロックをセットにして、組み合わせていろいろな長さを作ります。日本大百科全書は、103個組・76個組・47個組など、メーカーによっていろいろなセットがあると説明しています。
よく使われる103個組の中身の例は次のとおりです(販売店の製品ページの例)。
| 寸法の範囲 | 刻み | 個数 |
|---|---|---|
| 1.005mm | — | 1 |
| 1.01〜1.49mm | 0.01mm | 49 |
| 0.5〜24.5mm | 0.5mm | 49 |
| 25〜100mm | 25mm | 4 |
等級の考え方
JIS では、ブロックゲージの精度に K級・0級・1級・2級の等級があります。販売店の説明では、おおむね次のように使い分けます。
| 等級 | 主な用途の目安 |
|---|---|
| K級 | ほかのブロックゲージを校正する基準、精密な研究 |
| 0級 | 検査用ゲージや測定器の精度の点検 |
| 1級 | 一般の測定器の点検、部品の検査 |
| 2級 | 工作用の測定器の調整、工具の取り付け |
ここで気をつけたいのが、「K級がいちばん寸法が正確」と単純に考えないことです。米国の規格(ASME B89.1.9)の説明では、K級は平行度が00級並みである一方、寸法の正確さは AS-1級(00級・0級より下の等級)並みとされています。JIS の K級も、ほかのブロックゲージを校正する基準に使う等級です。基準として使うときは、呼び寸法ではなく校正で測った実際の寸法(校正値)と合わせて使います。
ドイツの国家計量機関 PTB も、ブロックゲージで最も大事な情報は「20℃での長さとその不確かさ」だと書いています。K級や0級に合っているという表示だけで使うのは意味がない、という立場です。PTB によると、ISO 3650 の最新版からは PTB の提案で00級が削られました。
現場の目安としては、次の2つを押さえておけば十分です。
- 呼び寸法のまま使うなら、等級の許容差が、点検したい測定器の許容誤差より十分小さいものを選ぶ
- より正確に使うなら、校正証明書に書かれた実際の寸法で計算する
等級ごとの許容差の数値は、寸法の範囲によって違います。使うセットのカタログと校正証明書で確かめてください。
欲しい寸法の組み合わせ方
組み合わせは、いちばん下の桁から順に消していくのが基本です。103個組で48.375mm を作ってみます。
- 0.001mm の桁の「5」を消すために、1.005mm を選ぶ。残りは 48.375−1.005=47.370mm
- 0.01mm の桁の「7」と0.1mm の桁の「3」を消すために、1.37mm を選ぶ。残りは 47.370−1.37=46.000mm
- 46mm を、0.5mm 刻みの系列の21mm と、25mm 刻みの系列の25mm で作る。残りは0
\[
48.375 = 1.005 + 1.37 + 21 + 25
\]
Excel で確かめるなら、選んだブロックの寸法をA2〜A5に入れて =SUM(A2:A5) が目標の寸法と一致するかを見ます。同じ考え方で、12.345mm なら 1.005+1.34+10 の3枚です。
Wikipedia の解説にもあるとおり、熟練者はできるだけ少ない枚数で組みます。1枚ごとに寸法の誤差があるので、枚数が多いほど誤差がたまるからです。下の桁から消していく方法は、自然と枚数が少なくなるやり方でもあります。
枚数が増えると誤差はどうたまるか
1枚あたりの寸法の誤差を最大±0.2µm として、4枚組と2枚組を比べます(0.2µm は説明のための仮の数字です)。
4枚の誤差が全部同じ向きにそろった最悪の場合は、そのまま足し算です。
\[
4 \times 0.2 = 0.8\ \mu\text{m}
\]
実際には、プラスのブロックとマイナスのブロックが混ざるので、全部がそろうことはまれです。誤差がばらばらの向きに出るとみなせるときは、二乗和の平方根で見積もります(分散は足し算できる、という性質を使っています)。
\[
\sqrt{4} \times 0.2 = \sqrt{0.2^2 + 0.2^2 + 0.2^2 + 0.2^2} = 0.4\ \mu\text{m}
\]
Excel では、各ブロックの誤差をB2〜B5に入れて、最悪の場合が =SUM(B2:B5)、二乗和の平方根が =SQRT(SUMSQ(B2:B5)) です。
| 枚数 | 最悪の場合 | 二乗和の平方根 |
|---|---|---|
| 2枚 | 0.4µm | 0.28µm |
| 4枚 | 0.8µm | 0.4µm |
どちらの見方でも、枚数が増えるほど誤差は大きくなります。正確さが要る基準を作るときは、校正値を使い、1枚ずつの実際のずれを足し合わせて組んだ寸法を計算すると、この見積もりそのものが要らなくなります。
なお、密着させたときのすき間(油膜)によるずれは0.01µm 程度以下とごく小さく、ふつうは問題になりません。問題になるのは、次に説明する汚れと温度です。
密着(リンギング)の手順
ブロックゲージを重ねるときは、ただ置くのではなく、面どうしを滑らせてぴったり吸い付かせます。これを密着(リンギング)と呼びます。Wikipedia は、手順を次の4つにまとめています。
- きれいにしたブロックを、油を含ませたパッドの上で軽く滑らせる
- 乾いたパッドで、余分な油を拭き取る
- もう一方のブロックに直角に当て、適度に押しながら滑らせて、十字の形に重ねる
- ブロックを回して、2つの向きをそろえる
正しく密着したブロックは、300N(約30kgf)の引っ張りに耐えることもあるほど強くくっつきます。磁石のように感じますが、磁力ではありません。仕組みは、空気が押し出されること、油や水分の表面張力、とても平らな面どうしの分子の引き合う力などが合わさったものと説明されています。
うまく吸い付かないときは、面に汚れや小さな傷・かえりがある合図です。無理に押し付けると面を傷めます。拭き直しても吸い付かないブロックは、かえりを取る専用の砥石で整えるか、校正に出して状態を確かめます。使い終わったら、密着をはがし、拭いてから防錆油を塗ってケースに戻します。
温度で長さはどれだけ変わるか
ブロックゲージの寸法は20℃で決められています。鋼の線膨張係数をおよそ11.5×10⁻⁶/℃として、48.375mm に組んだブロックを手で持ち続け、温度が2℃上がった場合を計算します(温度差は説明のための仮の数字です)。
\[
\Delta L = 11.5 \times 10^{-6} \times 48.375 \times 2 = 0.00111\ \text{mm}
\]
Excel では =11.5E-6*48.375*2 です。約1.1µm は、先ほどの4枚組の誤差の見積もり(0.4〜0.8µm)より大きくなります。等級の高いブロックを選んでも、手の熱でその差が消えてしまうわけです。
温度の影響を減らすには、次の点を守ります。
- ブロックと測定器を、使う部屋に置いて同じ温度になじませてから使う
- ブロックを手で持つ時間を短くし、組んだら台の上に置いて扱う
- 点検する測定器も、手で握り続けない
よくある質問
Q. ブロックゲージは何枚まで重ねてよいですか?
A. 決まった上限はありませんが、できるだけ少ない枚数にします。1枚ごとに寸法の誤差があり、枚数が増えるほど誤差がたまるからです。いちばん下の桁から順に消していくと、自然と枚数が少なくなります。
Q. K級を買えばいちばん正確ですか?
A. K級は校正の基準に使う等級で、校正で測った実際の寸法を使う前提です。呼び寸法のまま使うなら、等級の許容差が点検したい測定器に見合っているかで選びます。数値はカタログと校正証明書で確かめてください。
Q. 密着がうまくいきません。
A. 面の汚れや油の付けすぎ、小さな傷・かえりが原因のことが多いです。油のパッドで薄く油を付け、乾いたパッドで拭き取ってから、直角に当てて押しながら滑らせます。無理に押し付けると面を傷めます。
Q. 手で持つと本当に寸法が変わりますか?
A. 変わります。鋼の48.375mm のブロックが2℃上がると約1.1µm 伸びます。組み合わせの誤差より大きくなることもあるので、なじませてから使い、手で持つ時間を短くします。
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まとめ
- ブロックゲージは、組み合わせて欲しい長さを作る長さの基準器。測定器の点検や比較測定の基準に使う
- 等級は K・0・1・2級。高い等級ほど、呼び寸法より校正証明書の値を使うのが基本
- 組み合わせは下の桁から消す。48.375=1.005+1.37+21+25 の4枚
- 枚数が増えると誤差がたまる。1枚0.2µm なら4枚で最悪0.8µm、二乗和の平方根で0.4µm
- 密着は、油のパッド → 乾いたパッド → 直角に当てて滑らせる → 回してそろえる、の順。手の熱2℃で約1.1µm 伸びる
呼び寸法で足りる日常点検は1級や2級を少ない枚数で、基準を作る仕事は校正値を使って、という使い分けです。まずはケースからブロックを出したら、使う前に部屋の温度になじませるところから始めてみてください。
ブロックゲージで点検する測定器の読み方はノギスとマイクロメーターの読み方|目盛と測定誤差、ブロックゲージ自体を定期的に確かめる仕組みは測定器の校正とは|校正周期の決め方と校正切れの対応、校正証明書の不確かさの読み方は測定の不確かさとは|合成と拡張の計算手順、誤差が積み上がる考え方は公差とは|寸法公差の表し方とはめあい・工程能力との関係で解説しています。あわせてご確認ください。

