この記事でわかること
- 先入れ先出し(FIFO)と後入れ先出し(LIFO)の違い
- FIFOが崩れる典型パターンと、崩れやすい保管環境の特徴
- 期限切れ間近のロットを使うと不良率がどれだけ上がるか(計算例)
- FIFOを仕組みとして維持する方法
📌 関連:ロットをどこまで追跡できるかはトレーサビリティで扱っています。本記事はその入出庫の順番を扱います
棚卸しで倉庫の奥から、使用期限を2週間過ぎた接着剤が出てきた。伝票を見ると、入庫はしっかり記録されている。問題は、新しいロットが届くたびに手前に置き、奥の古いロットが取り残されていたことでした。
この状態を防ぐ考え方が先入れ先出し、略してFIFOです。この記事では、FIFOが崩れる原因と、崩れたときに品質へどう跳ね返るかを、実際の数値例で確認します。
FIFOが必要な場面
FIFOが効くのは、次のような条件がそろっている在庫です。
- 使用期限や推奨使用期限がある材料:接着剤、塗料、樹脂、化学薬品など
- 時間の経過で特性が変わる部材:吸湿しやすい部材、酸化しやすい金属材料
- ロットごとに入荷日・製造日が異なる部材:同じ型番でもロットで特性がわずかに揺れる
逆に、常温で特性がほぼ変わらない汎用部品では、FIFOを厳密に管理する優先度は下がります(△)。管理コストと品質リスクを見比べて判断します。
FIFOとLIFOの違い
| FIFO(先入れ先出し) | LIFO(後入れ先出し) | |
|---|---|---|
| 取り出す順番 | 入庫が古いものから | 入庫が新しいものから |
| 向いている在庫 | 期限・劣化がある材料 | 劣化しない汎用品 |
| 棚の奥の在庫 | いずれ手前に回る | 取り残されやすい |
LIFOは会計上の在庫評価方法として使われる言葉でもありますが、この記事で扱うのは現物をどの順番で取り出すかという運用の話です。棚の奥に置かれた古いロットが後回しにされ続けるのがLIFO的な動きで、意図しなくてもこの状態に陥ります。
FIFOが崩れる典型パターン
現場でFIFOが崩れるのは、ほとんどが次のどちらかです。
1. 新しいロットを手前に置いてしまう
荷受けした人が、奥まで運ぶ手間を省いて手前の空きに置く。作業者は取りやすい手前から使うため、奥のロットが残り続けます。
2. ロットの新旧が外見で区別できない
入庫日を記した表示がなければ、作業者は目の前にある容器を使うしかありません。古いロットを避けて選ぶことができないのです。
NG例(△):「気をつけて古い方から使う」というルールだけで運用することです。人の注意力に頼る仕組みは、忙しい時間帯や担当者交代のタイミングで必ず崩れます。動線と表示で強制的に古いものが先に出る配置にする必要があります。
FIFO違反が品質に与える影響(計算例)
使用期限12か月の接着剤で、製造後1か月のロットを使った場合と、FIFO崩れで製造後11か月まで倉庫に残ったロットを使った場合の不良率を比較します。それぞれ500個ずつ生産した結果です。
| 生産数 | 不良数 | 不良率 | |
|---|---|---|---|
| 新しいロット(製造後1か月) | 500個 | 8個 | 1.6% |
| 期限切れ間近ロット(製造後11か月) | 500個 | 27個 | 5.4% |
不良率だけを見ても差は明らかですが、この差が偶然のばらつきの範囲か、材料の劣化による本当の差かを2標本比率のZ検定で確認します。
プールした不良率は次のとおりです。
\[ \hat{p} = \frac{8 + 27}{500 + 500} = 0.035 \]Excelでは次のように計算します。
=(8+27)/(500+500)
この値を使って標準誤差を求めます。
\[ SE = \sqrt{\hat{p}(1-\hat{p})\left(\frac{1}{n_1}+\frac{1}{n_2}\right)} = \sqrt{0.035 \times 0.965 \times \left(\frac{1}{500}+\frac{1}{500}\right)} \approx 0.01162 \]2つの不良率の差をこの標準誤差で割ると、検定統計量Zが求まります。
\[ Z = \frac{0.054 – 0.016}{0.01162} \approx 3.27 \]Excelでは、次のように計算します。
=(0.054-0.016)/SQRT(0.035*(1-0.035)*(1/500+1/500))
Z値3.27は有意水準5%の両側臨界値1.96を大きく超えています。=2*(1-NORM.S.DIST(3.27,TRUE))で求めるとp値は約0.0011で、偶然でこの差が出る確率は0.11%です。期限切れ間近のロットを使うと、不良率は1.6%から5.4%へ、約3.4倍に上がると判断してよい差といえます。
この材料は使用期限内であり、規格上は「使ってよいロット」です。FIFO違反の怖さは、期限切れのような明確な違反ではなく、期限内ぎりぎりのロットが特性の劣化を起こしている点にあります。
FIFOを仕組みとして維持する方法
- 入出庫の動線を分ける:荷受け口と払い出し口を別にし、奥から入れて手前から出る一方通行の棚にする
- ロットに入庫日を表示する:ラベルや色分けシールで、見ただけで古い順がわかるようにする
- 棚を傾斜させる、または通路型にする:奥に入れたものが自然に手前へ流れる構造にすると、判断を人に委ねずに済む
- 期限が近いロットを別置きする:残り期間が一定を切ったロットを「優先使用」棚へ移し、忘れずに使い切る
整理整頓の土台を作る5S活動の「整頓」は、まさにこの「探さずに正しいものへ手が届く」状態を作る活動です。FIFOが崩れやすい現場は、整頓そのものができていないケースが少なくありません。
よくある失敗
- 棚卸しでしか古い在庫に気づかない:月次や年次の棚卸しは発見の場であって予防の仕組みではありません。日常の払い出し時に古い順で出る配置が必要です
- 入庫日はあるが使用期限が管理されていない:材料によって使用期限の長さは異なります。入庫日だけでなく、期限日をロットごとに把握しておきます
- 担当者が変わるとルールが引き継がれない:口頭ルールは属人化します。棚の表示や配置そのものにルールを埋め込むほうが確実です
よくある質問(FAQ)
Q. FIFOとトレーサビリティはどう違いますか?
A. トレーサビリティは「どのロットをどこで使ったか、後から追える状態」を指し、FIFOは「どの順番で在庫を払い出すか」という運用ルールです。FIFOを守っていても記録がなければ追跡できませんし、記録があってもFIFOが崩れていれば期限切れ間近の材料を使い続けてしまいます。両方がそろって初めて機能します。
Q. 汎用部品にもFIFOは必要ですか?
A. 常温保管で劣化しない汎用部品なら、厳密なFIFO管理の優先度は下がります。管理の手間に見合う品質リスクがあるかどうかで判断してください。
Q. 期限切れの材料を使うと必ず不良になりますか?
A. 必ずではありません。この記事の例のように、期限内でも劣化が進んでいれば不良率は上がりますし、期限を過ぎても規格を満たす場合もあります。判断は期限の有無だけでなく、実測データで行うのが確実です。
Q. FIFOはQC検定で出題されますか?
A. 直接FIFOという用語を問う出題は多くありませんが、在庫管理・工程管理の一部として、生産管理の考え方に含まれます。用語そのものより、「なぜ古いものから使うべきか」という理屈を理解しておくと応用が利きます。
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まとめ
- FIFOは「入庫が古いものから使う」運用ルールで、期限や劣化のある材料に必要
- 崩れる原因の多くは、新しいロットを手前に置く動線と、ロットの新旧が見分けられない表示不足
- 期限内でも古いロットの使用で不良率が明確に上がる例を確認した(1.6%→5.4%、約3.4倍)
- 棚の構造とラベル表示で「古いものが自然に先に出る」仕組みにするのが確実
まとめると、期限や劣化のある材料はFIFOを仕組みとして強制し、常温で劣化しない汎用部品は管理コストとのバランスで判断する、という使い分けです。
期限が近い材料を優先的に消費する判断が続くなら、品質コスト(PAFモデル)で廃棄・手直しのコストを見える化すると、棚の改善にかける予算の説得材料です。ロットごとの管理項目を工程図に落とし込みたい場合はQC工程図、材料の劣化を検査でどう検出するかは測定器の校正もあわせてご確認ください。
統計・品質管理の基礎から体系的に学びたい方はおすすめ書籍まとめもご覧ください。


