この記事でわかること
- FTAの考え方と、故障の木を作る6つの手順
- ANDゲート・ORゲートの確率計算と、Excelでの求め方
- 最小カットセットで弱点を見つけ、どこを対策すべきかを数字で決める方法
- 共通原因故障の落とし穴と、FMEAとの使い分け
📌 前提知識:ボトムアップで故障を洗い出すFMEAとセットで押さえると理解が深まります
「装置が止まった原因を、思いつきではなく筋道立てて突き止めたい」——重大なトラブルほど、原因が1つではなく、いくつかの要因の組み合わせで起きていることがあります。そんなとき、結果から原因へ論理的に遡るのがFTAです。
FTA(Fault Tree Analysis、故障の木解析)は、避けたい重大な事象を頂点に置き、その原因を木の枝のように分けながら、それ以上分解できない原因まで掘り下げる手法です。この記事では、木の作り方と確率の計算、そして計算結果から対策の優先順位を決めるところまでを、装置停止の例で見ていきます。
FTAを使う場面
FTAは、特定の重大事象に絞って、その原因を深く掘り下げたいときに使います。
- 重大な事故・故障の原因を論理的に分析したいとき
- 安全性や信頼性を、設計段階で数字で評価したいとき
- どの要因を対策すれば頂上事象を最も減らせるかを見極めたいとき
起こりうる故障を「広く浅く」洗い出すFMEAに対し、FTAは1つの重大事象を「狭く深く」掘り下げます。NG例(△)として、何が起こりうるかをまだ洗い出していない段階でいきなりFTAを描くと、頂上事象の選び方がぶれて、どの木も中途半端に終わります。先にFMEAで候補を洗い出し、影響の大きいものをFTAで深掘りするのが基本の流れです。
FTAの基本構造と記号
FTAは、上から下へ3種類の事象と、それをつなぐ論理ゲートでできています。
| 要素 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 頂上事象 | 避けたい重大な結果。木の頂点に置く | 装置の停止 |
| 中間事象 | 頂上事象につながる途中の故障 | 冷却の失敗 |
| 基本事象 | それ以上分解しない原因。木の末端 | 主ファンの故障 |
図にするときは、事象を長方形、基本事象を円で描き、事象どうしを論理ゲートの記号でつなぐのが一般的です。記号の決まりは国際規格IEC 61025にまとめられています。基本事象の原因をさらに洗い出すときは、特性要因図を併用すると整理しやすくなります。
ANDゲートとORゲート
事象どうしのつながり方を表すのが論理ゲートです。基本となるのは2種類です。
- ORゲート……下位の事象がどれか1つでも起きれば、上位の事象が起きる
- ANDゲート……下位の事象がすべて同時に起きたときだけ、上位の事象が起きる
各基本事象の発生確率がわかれば、上位事象の確率を計算できます。事象どうしが独立なら、次の式です。
ORゲート: P = 1 −(1 − p₁)(1 − p₂) / ANDゲート: P = p₁ × p₂
Excelでは、ORゲートは =1-(1-B2)*(1-B3)、ANDゲートは =B2*B3 で求まります(B2・B3に各事象の確率)。3つ以上をまとめるなら、ORは =1-PRODUCT(1-B2:B4)、ANDは =PRODUCT(B2:B4) です(=1-PRODUCT(1-B2:B4) は、Microsoft 365などの新しいExcelならそのまま、古い版ではCtrl+Shift+Enterで確定します)。ORは「1つでも起きれば発生」なので確率は高く、ANDは「すべて揃わないと発生しない」ので確率は低くなります。
故障の木の作り方|6つの手順
- 頂上事象を具体的に決める……「故障」ではなく「稼働中に装置が停止する」のように、範囲と状態をはっきりさせる
- 直接の原因を洗い出す……頂上事象のすぐ下に来る事象を、漏れなく並べる
- ゲートでつなぐ……「どれか1つで起きる」ならOR、「全部そろって起きる」ならAND
- 基本事象まで展開する……部品の故障や作業ミスなど、確率を与えられる単位まで分解する
- 確率を入れて計算する……下から上へ、ゲートごとに計算する
- 弱点を見つけて対策する……最小カットセットと、対策の効果を比べて優先順位を決める
故障確率の計算例|装置の停止
頂上事象「装置の停止」を例に計算します。装置は、次の3つのどれかが起きると止まるとします(ORゲート)。
- 電源の故障(確率0.01)
- 制御基板の故障(確率0.02)
- 冷却の失敗(中間事象)……主ファンの故障(0.05)と予備ファンの故障(0.05)が両方起きたときだけ失敗する(ANDゲート)
手順1:下の段から計算する
まず中間事象「冷却の失敗」をANDゲートで計算します。
P(冷却の失敗)= 0.05 × 0.05 = 0.0025
ファンが1台なら0.05だった失敗の確率が、予備を持つことで0.25%まで下がります。これが冗長設計(予備を持つ設計)の効果です。
手順2:頂上事象を計算する
次に、電源・制御基板・冷却の3つをORゲートでまとめます。
P(装置の停止)= 1 −(1 − 0.01)(1 − 0.02)(1 − 0.0025)= 1 − 0.99 × 0.98 × 0.9975 = 1 − 0.967774 = 0.03223
Excelでは、3つの確率をB2:B4に入れて =1-PRODUCT(1-B2:B4) です。装置が止まる確率は約3.22%です。なお、電源と制御基板の2つだけなら 1 − 0.99 × 0.98 = 0.0298(約3.0%)で、冷却の失敗を加えても約0.24ポイントしか増えません。
弱点を見つける|最小カットセットと対策の比較
頂上事象を起こす基本事象の最小の組み合わせを、最小カットセットと呼びます。この例では次の3つです。
- {電源の故障}
- {制御基板の故障}
- {主ファンの故障, 予備ファンの故障}
要素が1つだけのカットセットは、その1つが壊れただけで装置が止まる「単一故障点」です。ここが設計上の弱点です。
では、どこを対策すると効果が大きいでしょうか。基本事象の確率を1つずつ半分にして、頂上事象の確率を計算し直します。
| 対策 | 装置停止の確率 | 現状からの減り方 |
|---|---|---|
| 現状 | 0.03223 | — |
| 制御基板の故障を0.02→0.01に | 0.02235 | −30.6% |
| 電源の故障を0.01→0.005に | 0.02734 | −15.2% |
| 主ファンの故障を0.05→0.025に | 0.03101 | −3.8% |
ファンは確率の数字こそ大きいものの、すでに二重化されているので、改善しても全体はほとんど変わりません。効くのは単一故障点、とくに確率の大きい制御基板です。「確率の大きい部品から直す」のではなく、「頂上事象への効き方で選ぶ」のがFTAを使う意味です。
落とし穴|共通原因故障
ANDゲートの掛け算は、下位の事象が独立であることが前提です。ところが実際には、主ファンと予備ファンが同じ電源から給電されている、といったことがよくあります。
両方のファンが止まる原因として「ファン用電源の故障(0.01)」が加わると、冷却の失敗は次のとおりです。
P(冷却の失敗)= 1 −(1 − 0.0025)(1 − 0.01)= 0.01247
Excelでは =1-(1-B2*B3)*(1-B4) です(B2・B3にファンの故障、B4にファン用電源の故障)。独立として計算した0.0025の約5倍です。このように、1つの原因で複数の事象が同時に起きることを共通原因故障と呼びます。冗長設計の効果を見積もるときは、予備の系統が本当に独立しているか(電源・配線・設置場所・同じロットの部品など)を必ず確かめてください。
FMEAとの使い分け
FTAとFMEAは向きが逆で、補い合う関係です。
| 手法 | 向き | 得意なこと |
|---|---|---|
| FTA | トップダウン | 特定の重大事象の原因を深く掘り下げる・確率で評価する |
| FMEA | ボトムアップ | 起こりうる故障モードを網羅的に洗い出す |
「この重大事故をどう防ぐか」を深掘りするならFTA、「どんな故障が起こりうるか」を広く洗い出すならFMEAです。FMEAで影響度の高い故障モードを見つけ、それを頂上事象にしてFTAで深掘りする、という組み合わせがよく使われます。FMEAの詳細はFMEAとは|RPNの計算とワークシートの書き方・例で解説しています。すでに起きた1件の不具合の原因を深掘りするなら、なぜなぜ分析のほうが手早く進められます。
よくある質問
Q. 基本事象の確率がわからないときはどうしますか?
A. 部品メーカーの故障率データ、社内の故障実績、信頼性の文献値などから見積もります。見積もりが難しい場合でも、木の形と最小カットセットを整理するだけで、単一故障点という弱点は見つけられます。故障率の基礎は信頼性工学とはで扱っています。
Q. ORゲートは確率を足すだけではだめですか?
A. 確率が十分に小さいときは、足し算でも近い値が得られます。この記事の例では足し算で0.0325、正しい計算で0.03223です。ただし確率が大きくなるほど差が広がり、足し算では1を超えることもあるので、正式な評価では 1−(1−p₁)(1−p₂)… の式を使います。
Q. FTAとFMEAはどちらを先に行いますか?
A. 一般にはFMEAで起こりうる故障を広く洗い出し、影響の大きいものを頂上事象にしてFTAで深掘りします。新製品では、デザインレビューの資料として両方を用意することもあります。
Q. QC検定ではどう出題されますか?
A. 2級の実践分野で、品質保証の手法として出題されます。ANDゲートとORゲートの確率計算、FMEAとの向きの違いが問われやすい論点です。出題範囲はQC検定2級 実践編の攻略ロードマップで確認できます。
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まとめ
- FTAは、頂上事象(避けたい結果)から原因を木の形で展開する、トップダウンの解析手法
- ORは 1−(1−p₁)(1−p₂)、ANDは p₁×p₂。Excelでは =1-PRODUCT(1-範囲) と =PRODUCT(範囲)
- 例題の装置停止は3.22%。最小カットセットで単一故障点を見つけ、頂上事象への効き方で対策を選ぶ(制御基板の半減で−30.6%、ファンは−3.8%)
- ANDの掛け算は独立が前提。共通原因故障があると、冗長設計の効果は大きく下がる(例では約5倍の失敗確率)
- 広く洗い出すならFMEA、特定の重大事象を深く掘り下げるならFTA
まとめると、どんな故障が起こりうるかを知りたいならFMEA、特定の重大事象をどう防ぐかを数字で決めたいならFTA、という使い分けです。FTAを描いたら、最小カットセットで単一故障点を確かめるところまで進めてください。
故障率やMTBFなど信頼性の基礎は信頼性工学とは、QC検定での位置づけはQC検定2級 実践編の攻略ロードマップで確認できます。


