この記事でわかること
- SIPOC図の5つの要素が何を指すのか
- Pから埋めてO→C→I→Sと進める書き方の手順(POCIS順)。新規業務向けのCOPIS順も解説
- QC工程図との使い分けと、書けないときの対処
- 会議でそのまま使える空欄テンプレート
📌 前提知識:シックスシグマとは|DMAICと使う統計手法を読んでいると理解しやすくなります
部門横断の改善プロジェクトで、最初の会議が紛糾することがあります。製造は「材料のばらつきが原因」と言い、調達は「指示どおりの材料を入れている」と返す。話が噛み合わないまま2時間が過ぎる。原因の多くは、関係者が見ている工程の範囲が違うことにあります。
この認識のずれを最初に潰すための1枚がSIPOC図です。プロジェクトの対象範囲を、供給者から顧客までの流れとして俯瞰します。この記事では5つの要素の意味と、実際に書くときの手順を整理します。
SIPOC図を使う場面
SIPOC図が効いてくるのは、次のような場面です。
- プロジェクトの対象範囲を決めるとき(どこからどこまでを扱うか)
- 複数部門の関係者で認識を揃えるとき(工程の境界と受け渡しを共有する)
- 初めて関わる工程の全体像をつかむとき
NG例(△): 工程の詳細な条件や管理値を検討する場面には向きません。SIPOC図は意図的に粗く描くもので、細かい管理項目はQC工程図の担当です。SIPOC図に管理値を書き込み始めると、1枚で俯瞰するという利点が失われます。
SIPOC図とは|5つの要素
SIPOCは、5つの要素の頭文字を並べたものです。左から右へ、モノと情報が流れる順に並びます。
- Supplier(供給者):インプットを提供する相手。社外の取引先だけでなく前工程も含む
- Input(インプット):工程に入ってくるもの。材料・部品・情報・図面
- Process(プロセス):対象とする工程。4〜7ステップ程度の粗さで書く
- Output(アウトプット):工程から出るもの。製品・中間品・データ
- Customer(顧客):アウトプットを受け取る相手。後工程も顧客に含む
ここで大事なのが、SupplierもCustomerも社内を含むという点です。「後工程はお客様」という考え方をそのまま図にしたものだと捉えると、社内工程を対象にする場合も違和感なく書けます。
書き方の手順|POCIS順でPから埋める
SIPOCという並び順で左から埋めようとすると、たいてい手が止まります。P(プロセス)から始めて、O→C→I→Sの順に進めるのが実務的です。
- P:対象工程を4〜7ステップで書く。細かく分けすぎない。「洗浄→前処理→メッキ→乾燥→検査」程度の粒度
- O:その工程から何が出るかを書く。製品そのものだけでなく、検査記録などの情報も含める
- C:Oを受け取る相手を書く。後工程・客先・品質保証部門など
- I:工程に入ってくるものを書く。材料・部品・作業標準・図面
- S:Iを提供する相手を書く。取引先・前工程・設計部門
この順番になる理由は単純で、プロセスの範囲が決まらないと、その外側にある要素も決まらないためです。最初にPの始点と終点を確定させると、残りは機械的に埋まります。この埋め方は頭文字を取ってPOCIS順と呼ばれ、既存プロセスの整理に向いています。
逆に、まだ存在しない新しい業務を一から設計する場合は、COPIS順(Customer→Output→Process→Input→Supplier)で、顧客が何を求めるかから逆算して書く流儀もあります。DOE labの読者が扱う場面の多くは「既にある工程を改善したい」というケースのはずなので、この記事ではPOCIS順を基本として解説します。
記入例|メッキ工程のSIPOC
膜厚5±1μmを要求されるメッキ工程を例に、実際に埋めてみます。
| 要素 | 記入内容 |
|---|---|
| Supplier | 素材メーカー/薬品メーカー/前工程(プレス課)/設計部門 |
| Input | プレス済み部品/メッキ液/作業標準書/図面(膜厚5±1μm) |
| Process | 脱脂洗浄 → 酸活性 → 電気メッキ → 水洗・乾燥 → 膜厚検査 |
| Output | メッキ処理品/膜厚測定記録/不適合品 |
| Customer | 後工程(組立課)/品質保証部門/最終客先 |
この1枚があると、議論の的が絞れます。たとえば膜厚のばらつきが課題なら、Inputの「メッキ液」の管理状態と、Supplierである薬品メーカーのロット差が最初に疑うべき対象だと全員が見て取れます。冒頭の「製造 vs 調達」の噛み合わない議論も、この図を前にすれば「どの受け渡しの話をしているか」がはっきりします。
要因の洗い出しに進む段階では、この図のInputとProcessが特性要因図の骨に対応します。SIPOCで範囲を決めてから要因を広げると、抜けと重複が減ります。
そのまま使える空欄テンプレート
会議で使う場合は、次の枠をホワイトボードやExcelに写して埋めていきます。真ん中の列の問いに答える形で進めると手が止まりません。
| 要素 | 埋めるときの問い | 記入欄 |
|---|---|---|
| ③ Process | 対象工程は4〜7ステップで何をするか(ここから書く) | |
| ④ Output | その工程から何が出ていくか(モノ・情報の両方) | |
| ⑤ Customer | Outputを誰が受け取るか(後工程も含む) | |
| ② Input | 工程に何が入ってくるか(材料・図面・標準) | |
| ① Supplier | Inputを誰が提供するか(前工程も含む) |
表の並びは完成形のS→I→P→O→Cではなく、埋める順(P→O→C→I→S)にしてあります。先頭の丸数字は、完成した図で左から並べ直すときの位置です。清書するときはS・I・P・O・Cの順に並べ替えます。
QC工程図との使い分け
どちらも工程を1枚にまとめる図ですが、目的が違います。
| 観点 | SIPOC図 | QC工程図 |
|---|---|---|
| 目的 | 対象範囲と関係者の共有 | 各工程の管理方法を定める |
| 粒度 | 粗い(4〜7ステップ) | 細かい(全工程・管理値まで) |
| 使う場面 | プロジェクトの立ち上げ時 | 日常の工程管理・監査対応 |
順番としては、SIPOC図で全体像と範囲を固めてから、深掘りする工程についてQC工程図で管理項目を詰める流れが自然です。すでにQC工程図が整備されている工程なら、そこからProcess欄を粗くまとめ直すだけでSIPOC図が書けます。
うまく書けないときの3パターン
手が止まるときは、たいてい次のどれかです。
- Processを細かく書きすぎている:20ステップにもなると俯瞰の役に立ちません。4〜7ステップにまとめ直します
- 始点と終点が決まっていない:どこからどこまでを扱うかが曖昧なままだと、SもCも書けません。範囲の合意が先です
- Customerを社外だけだと思っている:後工程や品質保証部門も顧客です。社内工程が対象なら、受け取る部門を書きます
3つ目は特に多いつまずきです。「うちの工程は客先に直接出ないからCが書けない」という相談を受けますが、その場合は次の工程が顧客にあたります。
よくある質問
Q. SIPOC図はどのくらいの時間で作るものですか?
関係者が集まった状態で30分から1時間程度が目安です。時間をかけて精密に作り込む図ではありません。粗くても全員で1枚を見ながら合意することに価値があるため、会議の冒頭にホワイトボードで書き上げる使い方が向いています。
Q. SIPOCとCTQはどちらを先に決めますか?
順序に厳密な決まりはありませんが、SIPOC図で対象範囲を固めてからCTQを設定する流れが進めやすくなります。範囲が定まらないうちにCTQを決めると、あとで「その特性は対象工程の外だった」と判明することがあります。
Q. Inputに人や設備は含めますか?
含める流儀と含めない流儀の両方があります。SIPOC図では材料・情報などの「流れるもの」に絞り、人・設備・測定といった要素は特性要因図の側で扱うと、図が煩雑になりません。ただし設備の違いが課題の中心なら、Inputに書いておくほうが議論しやすくなります。
まとめ
- SIPOC図は、供給者・インプット・プロセス・アウトプット・顧客の5要素で工程を俯瞰する図
- 書く順番はP→O→C→I→S(POCIS順)。プロセスの範囲が決まらないと外側の要素も決まらない。新規業務の設計にはCOPIS順もある
- Processは4〜7ステップの粗さで書く。細かく書きすぎると俯瞰の役に立たない
- SupplierもCustomerも社内を含む。後工程は顧客にあたる
- 範囲の共有はSIPOC図、管理方法の決定はQC工程図と役割を分ける
プロジェクトの立ち上げで範囲を揃えたいならSIPOC図、日々の工程管理を定めたいならQC工程図、という使い分けです。範囲が固まったら、次はCTQとは|重要品質特性の決め方と実例で測る対象を決める段階に進みます。さらに体系的に学びたい方向けに、レベル別のおすすめ書籍を統計学・実験計画法のおすすめ本まとめで紹介しています。
※ シックスシグマ(Six Sigma)は Motorola, Inc. の登録商標です。本記事は手法の解説を目的とした第三者による情報提供であり、同社および各認定機関とは関係ありません。

