この記事でわかること
- リーンとシックスシグマが狙っているものの違い
- 7つのムダとバリューストリームマップの使いどころ
- 流れ効率の計算(Excel対応)と、その数字が示すもの
- DMAICのどのフェーズにリーンの道具が入るか
📌 前提知識:シックスシグマとは|DMAICと使う統計手法でDMAICの全体像を押さえておくと読みやすくなります
不良率は下がったのに、納期が縮まらない。工程能力を上げてクレームは減ったはずなのに、客先からは「もっと早く出せないか」と言われ続ける。製造現場でよくある行き詰まりです。
この状態は、ばらつきは減らしたが、流れは変えていないときに起こります。リーンシックスシグマは、この2つを別々の道具で攻める考え方です。この記事では、リーンとシックスシグマが何を狙っているのかを分け、どう組み合わせるのかを整理します。
リーンシックスシグマが向く場面
2つを組み合わせる意味があるのは、次のような場面です。
- 品質は安定したが、リードタイムが長いままのとき:不良は減ったのに納期短縮の要求に応えられない
- 工程間の停滞が大きいとき:加工そのものより、待っている時間のほうが長い
- 在庫が多く、問題が見えにくいとき:仕掛品が積み上がって異常の発見が遅れる
逆に、次の場合は無理に組み合わせる必要がありません。
NG例(△): 不良の原因がまだ分かっていない段階で、流れの改善から手を付ける進め方です。原因不明の不良が出続けている工程で在庫を減らすと、問題が起きたときに後工程が即座に止まります。ばらつきを抑えてから流れを速くするのが順序です。
もうひとつのNG例が、言葉だけを持ち込むことです。「ムダ取り」「流れ化」という語を会議で使っても、どの工程の何分を削るのかが決まらなければ何も変わりません。あとで扱う流れ効率のように、数字で現状を押さえるところから始めます。
リーンとシックスシグマは何が違うか
ひとことで言えば、リーンは時間を、シックスシグマはばらつきを相手にしています。狙いが違うので、使う道具も測る指標も変わります。
| 観点 | リーン | シックスシグマ |
|---|---|---|
| 減らすもの | ムダ(時間・在庫・運搬) | ばらつき(不良・不安定さ) |
| 主な指標 | リードタイム・流れ効率・在庫量 | 工程能力・不良率・標準偏差 |
| 代表的な道具 | 7つのムダ・バリューストリームマップ | 管理図・工程能力指数・実験計画法 |
| ものの見方 | 工程と工程のあいだを見る | 工程のなかを見る |
いちばん本質的なのは最後の行です。シックスシグマは、ひとつの工程が狙いどおりに作れているかを見ます。工程能力指数を計算するときも、対象はその工程の中のばらつきです。求め方は工程能力指数(Cp・Cpk)の計算とExcelでの求め方で扱っています。
リーンが見るのは、そこではありません。加工が終わってから次の工程に運ばれるまでに何が起きているかを見ます。個々の工程がどれだけ優秀でも、あいだで止まっていれば製品は出てきません。
だから両方が要ります。ばらつきだけを潰すと、冒頭のように「品質はいいが遅い」状態で止まります。流れだけを速くすると、不良が出たときに一気に波及します。
リーンの中心にある7つのムダ
リーンでは、付加価値を生まない作業をムダと呼び、代表的なものを7つに分類します。分類そのものは覚えなくても構いませんが、現場を歩くときの見る観点として役に立ちます。
| ムダ | 現場での見え方 |
|---|---|
| 作りすぎ | 後工程が要らない分まで先に流している |
| 手待ち | 段取り替えや承認待ちで人も設備も止まっている |
| 運搬 | 工程が離れていて台車で何度も往復している |
| 加工そのもの | 図面の要求以上に磨く、二重に検査する |
| 在庫 | 仕掛品が棚に滞留し、異常の発見が遅れる |
| 動作 | 工具を探す、しゃがむ、持ち替える |
| 不良・手直し | 作り直しに人と設備を取られる |
7つ目の不良・手直しは、シックスシグマが直接扱う領域です。リーンの分類の中に、シックスシグマの担当が1つ含まれていると考えると、両者の関係が分かりやすくなります。
動作と在庫のムダは、整理整頓の状態と直結します。工具を探す時間や仕掛品の滞留は、5S活動とは|整理・整頓から品質を作る進め方で扱う内容がそのまま効きます。手直しを減らす仕組みはポカヨケとは|人のミスを止める仕組みと現場の事例が近いところです。
バリューストリームマップで流れを見る
バリューストリームマップは、材料が入ってから製品が出ていくまでを1枚に描き、各工程の作業時間と、工程間の停滞時間を並べて書き込む図です。目的は工程の手順を示すことではなく、時間がどこで消えているかを見えるようにすることにあります。
QC工程図と混同しやすいので、違いを押さえておきます。
| 図 | 書き込むもの | 目的 |
|---|---|---|
| QC工程図 | 管理項目・管理水準・検査方法 | 品質を作り込む条件を決める |
| バリューストリームマップ | 作業時間・停滞時間・在庫量 | 時間がどこで消えているかを見る |
QC工程図の書き方はQC工程図とは|作り方と管理項目の決め方にまとめています。工程の範囲を俯瞰するだけならSIPOC図とは|書き方と5要素の埋め方のほうが手軽です。
まず紙1枚で描いてみる
専用の記号を覚える必要はありません。初回は次の3行で足ります。
- 1行目:工程を左から順に四角で並べる(受入 → 切削 → 検査 → 出荷)
- 2行目:各四角の下に、その工程の作業時間を書く
- 3行目:四角と四角のあいだに、そこで止まっている時間と仕掛品の数を書く
コツは3行目を必ず埋めることです。作業時間だけ書いた図は工程表と変わりません。あいだの時間を書いた瞬間に、削るべき場所が見えます。時間はストップウォッチで測らなくても、現場に聞けばおおよその値が出ます。
流れ効率を計算してみる
描いた図から出せる指標が流れ効率です。リードタイムのうち、実際に付加価値を生んでいた時間の割合を表します。
\[ \text{流れ効率} = \frac{\text{付加価値時間}}{\text{リードタイム}} \]
Excelでは割り算のあとパーセント表示にするだけです。
=B2/B3 ← 付加価値時間 ÷ リードタイム
ある部品加工の例で見てみます。工程は4つあり、実際に機械が削っている時間を合計すると12分でした。一方、材料が入ってから完成品として出ていくまでは3日かかっています。1日を8時間とすると、リードタイムは分になおして次のとおりです。
8 × 60 × 3 = 1,440分
流れ効率は 12 ÷ 1,440 = 0.00833、つまり0.83%です。3日のうち、実際に加工していたのは12分だけで、残りの1,428分は待ち・運搬・滞留に消えた時間です。
この数字を初めて出すと、たいていの現場で驚かれます。改善の余地は工程の中ではなく、工程と工程のあいだにあると分かるからです。
仮に停滞を削ってリードタイムを1日(480分)に縮めると、流れ効率は 12 ÷ 480 = 2.5% です。加工時間を1秒も短くしていないのに、3倍です。リーンが工程の中ではなく外を見る理由がここにあります。
では、その1,428分をどう削るのか。実務でまず当たるのは次の3つです。
- ロットをまとめすぎない:100個まとめて次工程へ渡すと、1個目は99個分の加工が終わるまで待たされます。小分けにするだけで待ち時間が縮みます
- 段取り替えの時間を短くする:段取りに時間がかかるほど「まとめて作ったほうが得」に見えるため、ロットが大きくなる原因です
- 工程の距離を縮める:運搬と、運搬待ちで置かれている時間の両方が減ります
1つ目と2つ目はつながっています。段取りが短くなるとロットを小さくでき、ロットが小さくなると待ち時間が減るという順番です。いきなりロットだけ小さくすると段取り回数が増えて現場が回らなくなるので、順序を守ります。
DMAICのどこにリーンが入るか
組み合わせるといっても、別々の活動を並行させるわけではありません。DMAICの進め方はそのままで、使う道具にリーンのものが加わると考えると実務に落ちます。
| フェーズ | 加わるリーンの道具 |
|---|---|
| Define | 顧客が価値と認めるものを決める |
| Measure | バリューストリームマップ・流れ効率 |
| Analyze | 7つのムダの観点で停滞の原因を見る |
| Improve | 工程配置の見直し・段取り時間の短縮 |
| Control | 作りすぎを防ぐ仕組みで維持する |
Measureで測るものが増えるのが最大の違いです。従来は不良率や工程能力を測っていたところに、リードタイムと停滞時間が加わります。測る対象が増えるだけで、DMAICの骨格は変わりません。
Defineで顧客にとっての価値を決める作業は、CTQとは|重要品質特性の決め方と実例でやっていることとほぼ同じです。Analyzeで停滞の原因をたどるときはなぜなぜ分析のやり方|5回のなぜで真因にたどり着く手順が使えます。Controlで状態を維持する仕組みは標準化と小集団活動とは|目的と進め方の範囲です。
日本の現場との関係
リーンの考え方は、トヨタ自動車の生産方式を海外の研究者が整理し、「リーン生産方式」として体系化したものが元になっています。日本の製造業にとっては輸入品ではなく、里帰りしてきた考え方です。
そのため、用語だけが新しく聞こえて中身は馴染みがある、という状況がよく起こります。ムダ取り、流れ化、段取り替えの短縮は、多くの工場ですでに日常的にやっていることです。
実務で意味があるのは、すでにやっていることに名前と指標が付く点です。感覚的に「あの工程で止まっている」と分かっていたものが、流れ効率という数字になると、改善の前後を比較できます。シックスシグマと日本のQC活動の関係はシックスシグマとQC活動の違い|TQMとの関係で整理しました。改善活動の進め方そのものはQCストーリーとは|問題解決型の8ステップが土台です。
導入でつまずく点
組み合わせようとして止まるのは、たいてい次の3つです。
- 順序を逆にする:不良が安定しないまま在庫を削ると、問題が起きた瞬間に後工程が止まる
- 部分最適に終わる:ひとつの工程の時間だけ短縮しても、次の工程で止まれば全体のリードタイムは変わらない
- 指標を測り続けない:流れ効率を1回出して終わりにすると、元に戻ったことに気づけない
2つ目は特に起こりやすい失敗です。速くすべきなのは、いちばん詰まっている工程であって、改善しやすい工程ではありません。バリューストリームマップを描く目的の半分は、どこが詰まっているかを取り違えないためにあります。
3つ目については、工程の状態を継続して見る仕組みが要ります。ばらつき側は管理図で見るのが定石です。どの管理図を使うかは管理図の選び方|計量値・計数値の判断基準とフロー図で判断できます。
よくある質問(FAQ)
Q. リーンとシックスシグマ、どちらから始めるべきですか?
不良が安定していないならシックスシグマ側からです。ばらつきが大きい状態で在庫を減らすと、問題が起きたときに逃げ場がなくなります。品質は安定していて納期だけが課題なら、リーン側から入って問題ありません。判断がつかない場合は、まず流れ効率を出してみると現状が見えます。
Q. 流れ効率は何%を目指せばよいですか?
業種と製品によって幅が大きく、共通の目標値はありません。意味があるのは他社との比較ではなく、自社の改善前後の比較です。今回の例のように1%を切る工程は珍しくないので、低い数字が出ても異常ではありません。まず現状を測り、停滞の大きい箇所から削っていきます。
Q. 中小規模の工場でも使えますか?
使えます。バリューストリームマップは紙とストップウォッチがあれば描けますし、流れ効率の計算も割り算1回です。専用のソフトや資格は前提になりません。むしろ工程数が少ないほうが全体を1枚に描きやすく、取り組みやすい面があります。
Q. リーンシックスシグマの資格は必要ですか?
手法を使うこと自体に資格は要りません。認定は各機関が独自に発行しているもので、日本に統一された国家資格や共通試験はありません。社内で進めるだけなら、手順と道具を理解していれば足ります。
まとめ
- リーンは時間、シックスシグマはばらつきを相手にする。見る場所が工程の「あいだ」か「なか」かで分かれる
- 7つのムダのうち「不良・手直し」がシックスシグマの担当。分類の中に片方が含まれている関係
- 流れ効率=付加価値時間÷リードタイム。例では12分÷1,440分=0.83%で、停滞を削り1日にすると2.5%と3倍になる
- DMAICの骨格は変わらず、Measureで測る対象にリードタイムと停滞時間が加わる
- 不良が安定しないうちに在庫を削らない。順序はばらつき→流れ
納期が課題ならリーン側の道具を、品質が課題ならシックスシグマ側の道具を先に当てる、という使い分けです。DMAICの全体像から確認したい方はシックスシグマとは|DMAICと使う統計手法、日本のQC活動との関係を知りたい方はシックスシグマとQC活動の違い|TQMとの関係へ進むと流れがつながります。体系的に学び直すなら、レベル別のおすすめ書籍を統計学・実験計画法のおすすめ本まとめで紹介しています。
※ シックスシグマ(Six Sigma)は Motorola, Inc. の登録商標です。本記事は手法の解説を目的とした第三者による情報提供であり、同社および各認定機関とは関係ありません。資格に関する記述は2026年8月時点で公開されている情報にもとづく一般的な整理です。掲載した数値は解説のための計算例で、実際の値は工程によって異なります。

