この記事でわかること
- 安全在庫を標準偏差から計算する手順
- 欠品率を下げるほど在庫が急に増える理由(計算例)
- なぜリードタイムに平方根がかかるのか
- 発注点の決め方と、計算が成り立たない条件
材料が切れて生産が止まった。前回は在庫を持ちすぎて期限切れで捨てた。そこで「少し多めに持つ」と決めたものの、その「少し」が何個なのかを説明できない——在庫の担当者が繰り返し直面する問題です。
この「少し」を数字で決めるための考え方が安全在庫です。この記事では、使用量のばらつきと調達リードタイムから必要量を計算する手順を、実際の数値で確認します。要点は、欠品をゼロにしようとすると在庫が急激に増えるという関係にあります。
安全在庫が必要な場面
安全在庫の計算が効くのは、次の条件がそろっているときです。
- 使用量が日によってばらつく:毎日きっかり同じ数しか使わないなら、リードタイム分だけ持てば足ります
- 調達に時間がかかる:発注してすぐ届くなら、在庫を持つ意味は小さくなります
- 過去の使用実績が記録されている:ばらつきの大きさ(標準偏差)を計算できることが前提です
逆に、受注生産で使用量が事前に確定している部材や、共通部品として他機種にも回せる材料では、この計算をそのまま当てはめる必要はありません(△)。転用できる在庫は、欠品の損失そのものが小さくなるためです。
安全在庫の計算式
安全在庫は、次の式で求めます。
\[ 安全在庫 = k \times \sigma \times \sqrt{L} \]それぞれの意味は次のとおりです。
| 記号 | 意味 | 決め方 |
|---|---|---|
| k | 安全係数 | 許容する欠品率から決める |
| σ | 1日あたり使用量の標準偏差 | 過去の出庫実績から計算する |
| L | 調達リードタイム(日) | 発注から入庫までの日数 |
安全係数kは、標準正規分布の分位点です。欠品率5%を許容するなら上側5%点、1%なら上側1%点を使います。Excelでは次のように求めます。
=NORM.S.INV(0.95)
=NORM.S.INV(0.99)
それぞれ1.6449と2.3263が返ります。
計算例:欠品率を下げるといくら増えるか
ある部材について、次の実績が取れているとします。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1日あたり平均使用量 | 100個 |
| 1日あたり使用量の標準偏差(σ) | 20個 |
| 調達リードタイム(L) | 9日 |
欠品率5%(サービス水準95%)で計算します。
\[ 安全在庫 = 1.6449 \times 20 \times \sqrt{9} = 1.6449 \times 20 \times 3 = 98.69 \]切り上げて99個です。Excelでは次のように書けます。
=NORM.S.INV(0.95)*20*SQRT(9)
次に、欠品率を1%(サービス水準99%)まで下げた場合です。
\[ 安全在庫 = 2.3263 \times 20 \times 3 = 139.58 \]切り上げて140個です。ここが判断の分かれ目です。
| サービス水準 | 安全係数k | 安全在庫 |
|---|---|---|
| 95%(欠品率5%) | 1.6449 | 99個 |
| 99%(欠品率1%) | 2.3263 | 140個 |
欠品率を5%から1%へ4ポイント下げるために、在庫は99個から140個へ41%増えます。欠品率の下げ幅に対して在庫の増え方が大きいのは、正規分布の裾が外側ほど薄くなるためです。欠品をゼロに近づけようとするほど、1%あたりの在庫コストは跳ね上がります。
発注点は、リードタイム中に使う見込み量に安全在庫を足して求めます。
\[ 発注点 = 100 \times 9 + 99 = 999\ 個 \]=100*9+99
在庫が999個を下回った時点で発注をかければ、平均的な使用ペースなら入庫までもつ計算です。サービス水準99%で運用するなら、発注点は1,040個です。
なぜリードタイムに平方根がかかるのか
式を見ると、標準偏差σにはリードタイムLがそのままではなく、平方根の形で掛かっています。ここは直感に反する部分なので、分散に戻して確認します。
日ごとの使用量が互いに影響し合わないとき、L日分を合計した使用量の分散は、1日分の分散のL倍です。分散が加算できるという性質によるものです。
\[ L日分の分散 = L \times \sigma^2 = 9 \times 400 = 3600 \]標準偏差は分散の平方根なので、次のように戻ります。
\[ L日分の標準偏差 = \sqrt{3600} = 60 = 20 \times \sqrt{9} \]Excelでは次のように確認できます。
=9*20^2
=SQRT(9*20^2)
加算できるのは標準偏差ではなく分散のほうだ、という点がこの式の根拠です。同じ考え方は測定誤差と有効数字でも扱っています。
この関係から、実務上の判断が1つ導けます。リードタイムを9日から半分の4.5日に短縮しても、安全在庫は99個から70個へ、29%しか減りません(1/√2=0.7071倍)。調達期間の短縮は効果がありますが、日数に比例して在庫が減るわけではない点は知っておく価値があります。
NG例(△):日々の使用量に強い連動があるのに、この式をそのまま使うことです。「たくさん使った翌日もたくさん使う」という傾向がある場合、分散は単純にL倍できず、実際の変動は計算値より大きくなります。時系列分析で自己相関を確認してから使うのが確実です。
よくある失敗
- 平均だけで発注点を決める:平均使用量×リードタイムだけでは、使用量が平均を上回った時点で欠品します。安全在庫を足す意味はここにあります
- リードタイムのばらつきを無視する:この記事の式は使用量のばらつきだけを見ています。納期自体が揺れる部材では、リードタイムの変動も別に見込む必要があります
- サービス水準を全部材で一律にする:欠品したときの損失は部材ごとに違います。ラインが止まる部材と代替が効く部材で、水準を分けるのが合理的です
- 期限のある材料で在庫を厚くする:欠品対策で在庫を増やすと、今度は期限切れの廃棄が増えます。使用期限のある材料では上限側の管理も必要です
よくある質問(FAQ)
Q. 安全係数kはどう決めればよいですか?
A. 許容する欠品率から決めます。欠品率5%ならExcelの=NORM.S.INV(0.95)で1.6449、1%なら=NORM.S.INV(0.99)で2.3263です。欠品したときの損失が大きい部材ほど、高い水準を選びます。
Q. 使用量の標準偏差はどの期間で計算しますか?
A. 直近の生産条件を反映した期間で計算します。古いデータまで含めると、生産量が大きく変わった時期のばらつきが混ざり、実態から離れます。季節変動がある部材では、同じ季節どうしで比べる方法もあります。
Q. リードタイムが変動する場合はどうしますか?
A. この記事の式はリードタイムを固定として扱っています。納期自体が揺れる場合は、リードタイムの標準偏差を含めた拡張版の式を使うか、リードタイムを長めの値で固定して安全側に倒す運用が現実的です。
Q. 安全在庫を持てば欠品はなくなりますか?
A. なくなりません。サービス水準95%は「5%の確率で欠品する」という意味です。欠品率をゼロにするには理論上無限の在庫が必要なので、どこで折り合いをつけるかを決める計算だと考えてください。
📚 この記事の内容をもっと深く学ぶ
まとめ
- 安全在庫は「安全係数k×使用量の標準偏差σ×√リードタイム」で求める
- 欠品率5%→1%に下げると、計算例では在庫が99個→140個へ41%増える
- リードタイムに平方根がかかるのは、加算できるのが標準偏差ではなく分散だから
- そのためリードタイムを半分にしても、安全在庫は29%しか減らない
まとめると、ラインが止まる影響の大きい部材は高いサービス水準で厚めに、代替が効く部材は水準を下げて在庫を絞る、という使い分けです。
ばらつきそのものの大きさを比べたい場合は変動係数、正規分布の裾がどれだけ薄いかを確認したい場合は3シグマルールもあわせてご確認ください。在庫を持つコストと欠品による損失の釣り合いは品質コスト(PAFモデル)の考え方が使えます。
統計・品質管理の基礎から体系的に学びたい方はおすすめ書籍まとめもご覧ください。


