この記事でわかること
- t分布表の行(自由度)と列(確率)の読み方
- 両側の表と片側の表の見分け方と、取り違えたときに起きること
- ExcelのT.INV.2T・T.INVで表を使わずに同じ値を求める手順
📌 前提知識:正規分布表の見方|上側確率の読み方とExcelでの求め方を読んでいると理解しやすくなります
新しい焼入れ炉で処理した部品を10個抜き取り、硬さを測りました。平均は58.4HRCで、これまでの基準値58.0より少し高めです。この差が測定のばらつきの範囲なのか、炉を替えたことで本当に変わったのかを、t検定で確かめることにしました。
計算したt値を何と比べればよいのか、手元の教科書のt分布表を開くと、数字がぎっしり並んでいます。どの行を見て、どの列を見るのか。両側と片側のどちらの表なのか。ここを間違えると、同じデータから逆の結論が出ます。この記事では、t分布表の読み方を例題で確かめ、Excelで同じ値を出す方法までまとめます。
t分布表を使う場面
t分布表は、t検定や信頼区間で「どこまでなら偶然の範囲か」という境目(臨界値)を調べるための表です。次のような場面で使います。
- 母集団の標準偏差が分からず、標本の標準偏差で代わりに計算するとき。工場のデータはほとんどがこれです
- 標本が数個〜数十個と少なく、正規分布の1.96では境目が甘くなるとき
- QC検定のように、Excelが使えない場面で臨界値を読む必要があるとき
母集団の標準偏差が分かっている場合や、標本が数百個ある場合は、正規分布表で足ります。t分布は、標本が少ないほど裾が厚くなり、自由度が大きくなるにつれて正規分布に近づくからです。3つの分布の関係はχ²・t・F分布の使い分け|検定でどれを使う?で整理しています。
t分布表の読み方|行は自由度、列は確率
t分布表は、行が自由度 \( \phi \)、列が確率になっています。正規分布表と違い、表の中の数字は確率ではなく、t の値(臨界値)です。次は、日本の品質管理の教科書でよく使われる「両側確率」の表の一部です。
| 自由度 φ | P=0.10 | P=0.05 | P=0.01 |
|---|---|---|---|
| 1 | 6.314 | 12.706 | 63.657 |
| 4 | 2.132 | 2.776 | 4.604 |
| 5 | 2.015 | 2.571 | 4.032 |
| 9 | 1.833 | 2.262 | 3.250 |
| 10 | 1.812 | 2.228 | 3.169 |
| 14 | 1.761 | 2.145 | 2.977 |
| 20 | 1.725 | 2.086 | 2.845 |
| 30 | 1.697 | 2.042 | 2.750 |
| 40 | 1.684 | 2.021 | 2.704 |
| 60 | 1.671 | 2.000 | 2.660 |
| ∞ | 1.645 | 1.960 | 2.576 |
読み方は2ステップです。
- 自由度を決めて行を選ぶ。1つの標本の平均を調べるなら \( \phi = n – 1 \) です。10個なら φ=9 の行を見ます
- 有意水準を決めて列を選ぶ。両側5%なら P=0.05 の列です
φ=9 の行と P=0.05 の列が交わるマスは 2.262 です。計算したt値の絶対値が2.262より大きければ、両側5%で有意と判断します。自由度の決め方は検定の種類で変わります。詳しくは自由度とは|なぜn−1で割るのか・各検定での求め方で解説しています。
一番下の ∞ の行を見てください。自由度が無限に大きいとき、t分布は正規分布と同じになり、両側5%の値は正規分布の1.960と一致します。自由度が小さいほど値が大きくなり、φ=9 では2.262、φ=4 では2.776です。標本が少ないほど、偶然でも大きなt値が出やすいので、境目を遠くに置いているわけです。
両側の表と片側の表を見分ける
t分布表には、列の確率が「両側」を表すものと「片側」を表すものの2種類があります。日本の品質管理の教科書やQC検定の付表は両側の表が多く、海外の統計の教科書には片側の表が多いです。同じ「0.05」の列でも、中の数字が違います。
| 表の種類 | 「0.05」の列の意味 | φ=9 の値 |
|---|---|---|
| 両側確率の表 | 左右の裾を合わせて5% | 2.262 |
| 片側確率の表 | 右の裾だけで5% | 1.833 |
見分けるいちばん簡単な方法は、∞ の行の「0.05」の列を見ることです。1.960なら両側の表、1.645なら片側の表です。表の見出しに「両側」「片側」「α」「P」と書かれていても、本によって記号の使い方がまちまちなので、この確かめ方が確実です。
片側の表しかないときに両側5%の値がほしければ、片側の「0.025」の列を見ます。逆に、両側の表で片側5%の値がほしければ、両側の「0.10」の列を見ます。上の両側の表で φ=9・P=0.10 が1.833になっているのは、このためです。片側と両側の考え方は片側検定と両側検定の違い|使い分けと棄却域で解説しています。
例題|焼入れ硬さ10個の検定と信頼区間
冒頭の例で、実際に表を使ってみます。新しい焼入れ炉で処理した部品10個の硬さは、平均 \( \bar{x} = 58.4 \)、標準偏差 \( s = 0.62 \) でした。これまでの基準値は \( \mu_0 = 58.0 \) です。
手順1:t値を計算する
1つの標本の平均を基準値と比べるt値は、次の式で求めます。
\[ t = \frac{\bar{x} – \mu_0}{s / \sqrt{n}} = \frac{58.4 – 58.0}{0.62 / \sqrt{10}} = \frac{0.4}{0.1961} = 2.040 \]
Excelでは、平均がB1、基準値がB2、標準偏差がB3、個数がB4にあれば次の式です。
=(B1-B2)/(B3/SQRT(B4)) → 2.040
手順2:表から臨界値を読む
自由度は \( \phi = 10 – 1 = 9 \) です。ここで、何を確かめたいかによって見る列が変わります。
| 確かめたいこと | 臨界値(φ=9) | 判定 |
|---|---|---|
| 硬さが変わったか(両側5%) | 2.262 | 2.040<2.262 → 有意ではない |
| 硬さが上がったか(片側5%) | 1.833 | 2.040>1.833 → 有意 |
同じデータなのに、両側か片側かで結論が逆になりました。p値で見ても、両側は0.072、片側は0.036で、5%をはさんで分かれています。
どちらが正しいかは、データを見る前に決めた問いで決まります。「炉を替えて硬さが変わっていないか」を確かめるのが目的なら両側です。データを見て高めだったから片側に切り替える、というのは結論を都合よく選ぶことになるので、やってはいけません。この例では、炉の変更で硬さが上がる理由を事前に説明できない限り、両側で「差があるとは言えない」と判断します。
手順3:95%信頼区間を求める
同じ臨界値で、母平均の95%信頼区間も求められます。
\[ \bar{x} \pm t(\phi, 0.05) \times \frac{s}{\sqrt{n}} = 58.4 \pm 2.262 \times 0.1961 = 58.4 \pm 0.44 \]
区間は57.96〜58.84HRCです。基準値58.0がこの中に入っているので、両側の検定で有意にならなかったことと一致します。Excelでは、半幅を次の式で一度に求められます。
=CONFIDENCE.T(0.05,0.62,10) → 0.4435
信頼区間の考え方は信頼区間の求め方|Excelで95%信頼区間を計算する手順で詳しく解説しています。
表にない自由度と、Excelで求める方法
表にない自由度のとき
多くの表は、自由度30を超えると40・60・120のように飛び飛びです。たとえば自由度35の値は載っていません。このときは、小さいほうの自由度(30)の値を使うのが安全です。自由度が小さいほど臨界値は大きいので、有意と判断しにくい側に倒れます。
この例では、φ=30 の2.042を使います。正確な値は2.030なので、差はごくわずかです。境目ぎりぎりのt値が出たときだけ、Excelで正確な値を確かめれば十分です。
Excelで臨界値とp値を求める
Excelがあれば、表を引かずに同じ値が出せます。両側と片側で関数が分かれているので、表の取り違えのような間違いも起きにくくなります。
| 求めたいもの | 式 | 結果 |
|---|---|---|
| 両側5%の臨界値 | =T.INV.2T(0.05,9) | 2.262 |
| 片側5%の臨界値 | =T.INV(0.95,9) | 1.833 |
| 両側のp値 | =T.DIST.2T(2.040,9) | 0.072 |
| 片側(右側)のp値 | =T.DIST.RT(2.040,9) | 0.036 |
T.INV は「左からの累積確率」を受け取るので、片側5%の右側の臨界値には0.95を渡します。0.05を渡すと−1.833が返ってくるので注意してください。データから直接t検定をする方法はExcelでt検定のやり方を種類ごとに解説にまとめています。
よくある読み間違い
- 自由度に n をそのまま使う。10個なら φ=9 です。φ=10 の行を見ると2.228になり、境目を甘く見積もります
- 2つの標本の検定で自由度を間違える。8個と8個を比べる t検定(等分散を仮定)では \( \phi = 8 + 8 – 2 = 14 \) で、臨界値は2.145です。片方の n−1=7 ではありません
- 両側の表を片側の表として読む。両側の表の「0.05」をそのまま片側5%に使うと、本当は1.833でよいところを2.262と比べることになり、差を見逃しがちです
- 正規分布の1.96で代用する。標本が10個なら、本来の2.262との差は15%あります。少ない標本ほど1.96では甘くなります
2つの標本のt検定を手で計算する手順は対応のない2標本のt検定をExcel関数で手計算するやり方で解説しています。
よくある質問
Q. t分布表とt値表は同じものですか?
A. 同じものです。t分布表、t表、t値表などと呼ばれます。中身は、自由度と確率の組み合わせごとの臨界値の一覧です。両側の表か片側の表かは、∞ の行の0.05の列が1.960か1.645かで見分けます。
Q. 自由度が大きいときは正規分布表を使ってもよいですか?
A. 自由度が120を超えるくらいなら、両側5%の臨界値は1.98以下で、正規分布の1.96とほとんど変わりません。ただし、Excelで計算するなら T.INV.2T でそのまま正確な値が出るので、わざわざ切り替える必要はありません。
Q. 両側と片側はどうやって決めますか?
A. データを見る前に、確かめたい問いで決めます。「変わったか」なら両側、「上がったか」「下がったか」のように方向が決まっていて、反対方向の変化に関心がないときだけ片側です。データを見てから片側に切り替えてはいけません。
Q. Welchのt検定で自由度が小数になったときは?
A. 表を使うなら、小数点以下を切り捨てた自由度の行を見ます。小さいほうの自由度を使うと、有意と判断しにくい安全側に倒れます。Excelの T.INV.2T に小数の自由度を渡すと、自由度を切り捨てた値が返ってくる点に注意してください。
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まとめ
- t分布表は、行が自由度、列が確率で、中の数字は臨界値(t の値)
- 両側の表か片側の表かは、∞ の行の0.05の列が1.960か1.645かで見分ける
- 例題では、t=2.040 が両側5%(2.262)では有意でなく、片側5%(1.833)では有意だった。どちらを使うかはデータを見る前に決める
- Excelでは T.INV.2T(両側)と T.INV(片側)で、表を使わずに同じ値が出せる
まとめると、QC検定や手元に表しかない場面ではt分布表、仕事でデータを扱うならExcelの T.INV.2T・T.INV、という使い分けです。まず手元の表の ∞ の行を見て、両側の表か片側の表かを確かめておいてください。
t検定そのものの考え方はt検定とは?具体例でわかりやすくやり方を解説、p値の読み方はp値とは|有意差の意味と0.05の根拠をわかりやすく解説で解説しています。あわせてご確認ください。

