この記事でわかること
- 予防保全・事後保全・予知保全の違い
- ワイブル分布の形状パラメータで、定期交換が効く部品かどうかを見分ける方法
- 交換費用と故障の損失から交換周期を決める計算(Excel対応)
📌 前提知識:ワイブル解析のやり方|寿命データからm・ηを求めるを読んでいると理解しやすくなります
射出成形機のヒーターが、月に何本か突然切れます。切れるたびに機械が止まり、温度が戻るまでの成形品は不良として捨てています。保全の担当者からは「壊れる前に全部替えてしまえばいい」という声、購買からは「まだ使える部品を捨てるのはもったいない」という声が出ています。
どちらが正しいかは、部品の壊れ方と、交換にかかる費用・壊れたときの損失で決まります。この記事では、保全のやり方の違いを整理したうえで、寿命データから交換周期を数字で決めるところまで、具体例で追います。
予防保全を使う場面
予防保全は、故障する前に点検や部品交換を行い、設備が止まるのを防ぐ保全のやり方です。次のような設備や部品で効果が出ます。
- 壊れると損失が大きいもの。ラインが止まる、不良が大量に出る、安全にかかわる、といった設備です
- 使うほど摩耗や劣化が進み、寿命がある程度そろっている部品。ヒーター、ベアリング、ベルト、刃物などです
- 交換の費用が、壊れたときの損失に比べて十分に小さいとき
逆に、壊れても損失が小さく安い部品(照明のランプなど)は、壊れてから替える事後保全のほうが安く済みます。また、壊れる時期がまったく読めない部品は、決まった時間で替えても故障は減りません。この見分け方は、あとの節で寿命データを使って説明します。
予防保全・事後保全・予知保全の違い
保全のやり方は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 種類 | いつ手を入れるか | 向いているもの |
|---|---|---|
| 事後保全 | 壊れてから直す | 壊れても損失が小さい・安い部品、予備機がある設備 |
| 予防保全(時間基準保全) | 決めた時間・回数が来たら点検・交換する | 摩耗で寿命がそろっている部品、止まると損失の大きい設備 |
| 予知保全(状態基準保全) | 振動・温度・電流などを測り、劣化の兆しが出たら交換する | 寿命のばらつきが大きいが、劣化が測れる部品(ベアリングの振動など) |
規格の定義では、予防保全は時間で替えるもの(時間基準保全)と状態を測って替えるもの(状態基準保全)の両方を含みます。現場では状態基準保全を予知保全と呼んで分けることも多く、呼び方は会社によって違います。この記事では、時間で替えるものを予防保全、状態を測って替えるものを予知保全と呼びます。
時間で替えるやり方は、部品をまだ使えるうちに捨てます。そのかわり、計画した時間に替えられるので、生産を止める時間を短くでき、壊れたときの不良や段取りの損失も避けられます。どこまで早めに替えるのが得かは、次の2つで決まります。
- 部品がどう壊れるか(使うほど壊れやすくなるのか、時期に関係なく壊れるのか)
- 交換の費用と、壊れたときの損失の比
形状パラメータmで保全のやり方を選ぶ
部品の壊れ方は、寿命データにワイブル分布を当てはめたときの形状パラメータ m で読み取れます。m と尺度パラメータ η の求め方はワイブル解析のやり方|寿命データからm・ηを求めるで解説しています。
| m の値 | 故障のしかた | 時間で替える効果 |
|---|---|---|
| m<1 | 初期故障(使い始めに壊れやすい) | 逆効果。新品に替えるたびに初期故障を呼び込む |
| m≒1 | 偶発故障(時期に関係なく壊れる) | 効かない。替えても故障の起きやすさは変わらない |
| m>1 | 摩耗故障(使うほど壊れやすくなる) | 効く。m が大きいほど寿命がそろい、効果が大きい |
ポイントは m≒1 の部品です。故障率が一定なので、使った時間が長くても短くても、次の1時間で壊れる確率は同じです。新品に替えても故障の起きやすさは変わらないので、時間で替えた分だけ部品代と作業代が増えます。このタイプは、壊れてから替えるか、状態を測る予知保全に回します。
m<1 の部品では、まず初期故障の原因(組付けの不良、部品のロットの問題など)をつぶすのが先です。故障率の時間変化の全体像(バスタブ曲線)は信頼性工学とは|故障率・MTBF・MTTR・信頼度の求め方にまとめています。
例題|ヒーターの交換周期を決める
冒頭のヒーターで計算してみます。過去の故障記録をワイブル解析した結果、形状パラメータ m=3.0、尺度パラメータ η=5,000時間だったとします。m が1より大きいので摩耗故障で、時間で替える効果が見込めます。費用は次のとおりです。
- 計画して替えるときの費用 Cp:2万円(部品代と交換の作業)
- 使用中に切れたときの損失 Cf:20万円(部品代・作業に加え、停止中の生産と温度が戻るまでの不良)
手順1:壊れてから替える場合の費用
まず比べる基準として、事後保全の費用を出します。壊れるまでの平均時間(平均寿命)は、ワイブル分布では次の式で求まります。Γ はガンマ関数です。
\[ \text{平均寿命} = \eta \times \Gamma\left(1 + \frac{1}{m}\right) = 5000 \times 0.8930 = 4465 \]
Excelでは =5000*GAMMA(1+1/3) → 約4,465時間です。平均4,465時間ごとに20万円の損失が出るので、1時間あたりの費用は 200,000÷4,465=44.8円 です。
手順2:10%が壊れる前に替える(B10寿命)
手軽な決め方は、「全体の10%が壊れるまでの時間(B10寿命)」で替えることです。ワイブル分布で故障確率が F になる時間は、次の式で求まります。
\[ t = \eta \times \left(-\ln(1-F)\right)^{1/m} = 5000 \times (-\ln 0.9)^{1/3} = 2362 \]
Excelでは =5000*(-LN(0.9))^(1/3) → 約2,362時間です。故障を10%以下に抑えたい、という基準がはっきりしているときは、この時間で替えるのがわかりやすい決め方です。ただし、費用が最も安くなる時間とは限りません。
手順3:費用が最も安くなる交換周期を求める
交換周期を T 時間と決めると、T までに壊れなかったものは計画交換(2万円)、T より前に壊れたものは故障(20万円)として扱います。1時間あたりの費用は次の式で表せます。
\[ C(T) = \frac{C_p \times R(T) + C_f \times F(T)}{\int_0^T R(t)\,dt} \]
R(T) は T まで壊れずに残る確率(信頼度)、F(T)=1−R(T) は T までに壊れる確率です。分母は、交換1回あたりに実際に使える平均の時間です。交換した部品は、新品と同じ寿命の分布に戻るものとして計算しています。積分が出てきますが、Excelでは100時間刻みの表を作って台形で足し合わせれば十分な精度で求まります。
| 列 | 内容 | 式(下の行へコピー。D列は3行目から) |
|---|---|---|
| A列 | 時間 t(0, 100, 200, … 5000) | A2 に 0、A3 に =A2+100 |
| B列 | 信頼度 R(t) | =1-WEIBULL.DIST(A2,3,5000,TRUE) |
| C列 | 使える時間の累計(分母) | C2 に 0、C3 に =C2+(B2+B3)/2*100 |
| D列 | 1時間あたりの費用 C(T) | D3 に =(20000*B3+200000*(1-B3))/C3 |
WEIBULL.DIST関数は、引数の順が(時間, 形状 m, 尺度 η, TRUE)で、TRUE にすると故障確率 F(t) を返します。1から引くと信頼度です。主な交換周期での結果は次のとおりです。
| 交換周期 T | T までに壊れる割合 | 1時間あたりの費用 |
|---|---|---|
| 1,000時間 | 0.8% | 21.5円 |
| 1,500時間 | 2.7% | 16.6円 |
| 2,000時間 | 6.2% | 15.8円 |
| 2,500時間 | 11.8% | 17.0円 |
| 3,000時間 | 19.4% | 19.3円 |
| 4,000時間 | 40.1% | 25.9円 |
| (事後保全) | — | 44.8円 |
D列の最小を =MIN(D3:D52) で探すと15.8円で、そのときの時間は =INDEX(A3:A52,MATCH(MIN(D3:D52),D3:D52,0)) で1,900時間と引けます。2,000時間でも15.8円でほとんど変わらないので、点検の計画に合わせて「2,000時間ごとに交換」と決めるのが実務的です。壊れてから替える44.8円に比べて、費用はおよそ3分の1で済みます。
表の形を見ると、交換が早すぎる(1,000時間)と、まだ使える部品を捨てる費用で高くなります。遅すぎる(4,000時間)と、交換前に壊れる割合が増えて高くなります。その間に谷があり、谷の位置は Cf と Cp の比で動きます。故障の損失が大きいほど、早めに替えるほうが得です。
m=1 の部品で同じ計算をすると
同じ費用で、m だけを1(偶発故障)にして計算すると、事後保全は 200,000÷5,000=40.0円です。2,000時間で替えると48.1円、5,000時間で替えても42.3円で、どの交換周期でも事後保全より高くなります。前の節の「m≒1 の部品は時間で替えても効かない」が、費用の数字でも確かめられます。
予防保全を進めるときの注意点
- 寿命データは「壊れた時間」だけでなく「替えた時間」も残す。予防保全を始めると、壊れる前に替えた部品が増えます。替えた時点でまだ動いていた、という記録(打ち切りデータ)を捨てると、寿命を短く見積もってしまいます
- 費用 Cf には止まった時間の損失を入れる。部品代だけで比べると、壊れてから替えるほうが安く見えがちです
- 交換したら初期故障に気をつける。組付けのミスで交換直後に壊れる例は珍しくありません。交換作業の手順書と、交換後の確認を決めておきます
- 周期は一度決めて終わりにしない。部品の仕入れ先や使い方が変わると、m・η も変わります。年に1回は故障記録で見直します
保全の効果は、設備の止まった時間だけでなく、設備の実力全体で確かめます。時間稼働率・性能稼働率・良品率を掛け合わせる指標は設備総合効率(OEE)とは|3要素の計算と保全で解説しています。
よくある質問
Q. 予防保全と予知保全はどう違いますか?
A. 予防保全は、決めた時間や回数が来たら点検・交換するやり方です。予知保全は、振動や温度などを測り、劣化の兆しが出たときに交換するやり方です。予知保全を予防保全の一種(状態基準保全)として扱うこともあります。
Q. 交換周期はB10寿命で決めればよいですか?
A. 故障を10%以下に抑えたい、という基準があるならわかりやすい決め方です。ただし費用が最も安くなる時間とは一致しません。例題ではB10寿命が約2,362時間、費用が最小になるのは約1,900〜2,000時間でした。
Q. どんな部品でも予防保全をすれば故障は減りますか?
A. 減りません。ワイブル分布の形状パラメータ m が1前後の偶発故障の部品は、新品に替えても故障の起きやすさが変わりません。m が1より大きい摩耗故障の部品で効果が出ます。
Q. 寿命データが少ないときはどうしますか?
A. まずは故障した時間と交換した時間を、部品ごとに記録し始めます。数件しかないうちは、メーカーの推奨交換時間を使い、データがたまったらワイブル解析で m・η を求めて周期を見直します。
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まとめ
- 予防保全は、決めた時間で点検・交換して止まるのを防ぐやり方。壊れてから直す事後保全、状態を測って替える予知保全と使い分ける
- 時間で替えるのが効くのは、形状パラメータ m>1 の摩耗故障の部品。m≒1 の偶発故障では、替えた分だけ費用が増える
- 交換周期は、(Cp×R(T)+Cf×F(T))÷(使える時間) が最小になる T で決める。例題では約2,000時間で、事後保全の約3分の1の費用だった
- B10寿命(例題では約2,362時間)は「故障を10%に抑える」基準としてわかりやすいが、費用の最小とは別
まとめると、壊れても困らない安い部品は事後保全、寿命がそろって摩耗する部品は時間で替える予防保全、寿命はばらつくが劣化が測れる部品は予知保全、という使い分けです。まずは故障の記録から m を出し、時間で替えて得をする部品かどうかを確かめてみてください。
寿命データから m・η を求める手順はワイブル解析のやり方|寿命データからm・ηを求める、故障率と MTBF の基礎は信頼性工学とは|故障率・MTBF・MTTR・信頼度の求め方で解説しています。新しい部品の寿命を短い試験で確かめる方法は加速試験とは|アレニウス則で寿命を見積もる、故障の起き方と影響を設計の段階で洗い出す方法はFMEAとは|RPNの計算とワークシートの書き方・例にまとめています。

