この記事でわかること
- 確認実験が必要になる条件と、不要なケース
- 加法モデルによる予測値の計算手順(Excel対応)
- 有効反復数を使った予測値の信頼区間の求め方
- 実測値が予測から外れたときに疑うべき3点
📌 前提知識:実験計画法とは?3原則と手法の選び方を読んでいると理解しやすくなります
L9直交表で9回の実験を終え、要因効果図から最適条件はA2B2C2と出ました。報告書にそう書いて上司に見せたところ、「その条件、9回のうちどれで試したのか」と聞かれて答えに詰まる。改めて実験の割り付けを見返すと、A2B2C2という組み合わせはどの行にも入っていませんでした。
直交表は27通りの組み合わせから9通りだけを選んで実験する手法です。最適条件が選ばれた9通りの外側に来ることは珍しくありません。つまり最適条件の値は、実験の結果そのものではなく計算による予測値です。
この予測が現場で本当に再現するかを確かめる実験を、確認実験(confirmation run)と呼びます。実験計画法の最後の工程でありながら、手順を書いた資料は意外と少ない。この記事では予測値の計算から信頼区間による判定まで、L9直交表の例題で解説します。
確認実験を行う場面
確認実験が必要になるのは、最適条件の推定値が実測ではなく計算で得られている場合です。具体的には次の3つがあてはまります。
- 直交表を使い、最適条件が割り付けた行に含まれていないとき。L9で3因子3水準なら27通り中9通りしか実施していないため、3分の2の確率で最適条件は未実施です
- 一部実施要因配置(2k-p計画)で交互作用を主効果に交絡させたとき。交絡した効果が予測を狂わせる可能性があります
- タグチメソッドでSN比の利得を予測したとき。SN比は変換した指標なので、元の特性値での再現を別に確かめます
逆に、全水準の組み合わせをすべて実施する完全要因配置では、最適条件はすでに実測済みです。この場合の確認実験は「予測の検証」ではなく「同じ条件を再現できるか」という再現性の確認になり、目的が変わります。
NG例(△)として、実験から数か月あけて確認実験を行うのは避けてください。原材料ロットや作業者、季節による工場の温湿度が変わり、予測が外れた原因を切り分けられなくなります。フィッシャーの三原則の局所管理と同じ考え方で、確認実験も本実験と条件を揃えた区間の中で行うのが原則です。
例題|L9直交表で射出成形の引張強度を最適化する
射出成形品の引張強度(MPa)を高めるため、3つの因子を3水準ずつ取り上げ、L9直交表に割り付けました。第4列は空き列として誤差の推定に使います。
| 因子 | 水準1 | 水準2 | 水準3 |
|---|---|---|---|
| A:金型温度 | 40℃ | 60℃ | 80℃ |
| B:保圧 | 40MPa | 60MPa | 80MPa |
| C:冷却時間 | 15秒 | 20秒 | 25秒 |
9回の実験結果は次のとおりです。各行1回ずつ、順序は無作為化して実施しました。
| No. | A・B・C・e | 引張強度 y(MPa) |
|---|---|---|
| 1 | 1・1・1・1 | 41.7 |
| 2 | 1・2・2・2 | 46.8 |
| 3 | 1・3・3・3 | 42.6 |
| 4 | 2・1・2・3 | 49.7 |
| 5 | 2・2・3・1 | 52.1 |
| 6 | 2・3・1・2 | 48.2 |
| 7 | 3・1・3・2 | 45.4 |
| 8 | 3・2・1・3 | 49.3 |
| 9 | 3・3・2・1 | 49.9 |
9個の合計は425.7、全体平均は \( \bar{y} = 47.3 \) MPaです。
ExcelではAVERAGE関数で求めます。
=AVERAGE(D2:D10) → 47.3
最適条件の予測値を計算する
まず各因子の水準ごとの平均を出します。直交表では、ある因子の水準1の行を集めると、他の因子の水準が1・2・3と均等に混ざります。だから水準平均を比べれば、他因子の影響が打ち消されて目的の因子の効果だけが見えます。
| 因子 | 水準1の平均 | 水準2の平均 | 水準3の平均 |
|---|---|---|---|
| A:金型温度 | 43.7 | 50.0 | 48.2 |
| B:保圧 | 45.6 | 49.4 | 46.9 |
| C:冷却時間 | 46.4 | 48.8 | 46.7 |
| e:空き列 | 47.9 | 46.8 | 47.2 |
水準平均はAVERAGEIF関数で計算できます。A列に因子Aの水準番号、D列に測定値が入っている場合、水準2の平均は次のとおりです。
=AVERAGEIF(A2:A10, 2, D2:D10) → 50.0
3因子とも水準2が最も高く、最適条件はA2B2C2に決まりました。この組み合わせは9行のどこにもありません。
予測値は加法モデルで求めます。全体平均に、各因子の最適水準が持つ効果(水準平均と全体平均の差)を足し合わせる形です。
\[ \hat{y} = \bar{y} + (\bar{A_2} – \bar{y}) + (\bar{B_2} – \bar{y}) + (\bar{C_2} – \bar{y}) \]
数値を入れると次のとおりです。
\[ \hat{y} = 47.3 + 2.7 + 2.1 + 1.5 = 53.6 \]
式を整理すると「各最適水準の平均を足して、因子数から1を引いた回数だけ全体平均を引く」形です。Excelではこの形のほうが入力が短くて済みます。
=AVERAGEIF(A2:A10,2,D2:D10)+AVERAGEIF(B2:B10,2,D2:D10)+AVERAGEIF(C2:C10,2,D2:D10)-2*AVERAGE(D2:D10) → 53.6
現行条件の平均47.3に対し、予測値は53.6。予測利得は6.3MPaです。この6.3が本当に出るのかを、次の確認実験で確かめます。
なお、この加法モデルは因子どうしの交互作用がないことを前提にしています。交互作用が大きいと予測は外れます。予測が外れる原因の筆頭がここです。
予測値の信頼区間を求める
予測値53.6に対して実測値が52.8だったとして、これは「合った」のか「外れた」のか。目分量では判断できません。予測値には誤差の幅があるので、信頼区間を出して、その中に実測値が入るかで判定します。
誤差分散を求める
空き列(第4列)の変動が誤差です。平方和は各水準平均と全体平均の差の2乗を3倍して合計します。
| 要因 | 平方和 S | 自由度 φ | 寄与率 |
|---|---|---|---|
| A:金型温度 | 63.18 | 2 | 64.7% |
| B:保圧 | 22.38 | 2 | 22.9% |
| C:冷却時間 | 10.26 | 2 | 10.5% |
| e:誤差 | 1.86 | 2 | 1.9% |
| 合計 | 97.68 | 8 | 100% |
平方和はDEVSQ関数で計算できます。F2:F4に因子Aの3つの水準平均が入っている場合、次のとおりです。
=3*DEVSQ(F2:F4) → 63.18
誤差分散 \( V_e \) は誤差平方和を自由度で割った値です。
\[ V_e = \frac{S_e}{\phi_e} = \frac{1.86}{2} = 0.93 \]
Excelでは誤差の水準平均が入ったセル範囲から直接求められます。
=3*DEVSQ(F5:F7)/2 → 0.93
有効反復数を求める
予測値は9個のデータから計算していますが、9回分の精度があるわけではありません。3つの因子の効果を推定するのに自由度を使っているためです。実質何回分の精度があるかを表すのが有効反復数 \( n_{eff} \) で、田口の式では次のように求めます。
\[ n_{eff} = \frac{N}{1 + \phi_A + \phi_B + \phi_C} = \frac{9}{1 + 2 + 2 + 2} = \frac{9}{7} = 1.286 \]
Excelでは実験回数を、自由度の合計に1を足した値で割ります。
=9/(1+2+2+2) → 1.286
分母の1は全体平均の自由度です。9回実験しても、予測値の精度は約1.3回分しかありません。
信頼区間を計算する
確認実験を \( r \) 回繰り返す場合、予測値と確認実験の平均の差についての信頼区間は次の式で求めます。
\[ \hat{y} \pm t(\phi_e,\ 0.05)\sqrt{V_e\left(\frac{1}{n_{eff}} + \frac{1}{r}\right)} \]
Excelではt値をT.INV.2T関数で出し、平方根をSQRT関数で計算します。確認実験を3回行う場合は次のとおりです。
=T.INV.2T(0.05, 2) → 4.3027 =T.INV.2T(0.05,2)*SQRT(0.93*(1/(9/7)+1/3)) → 4.374
信頼区間は 53.6 ± 4.37、すなわち49.23 〜 57.97 MPaです。
確認実験の結果を判定する
最適条件A2B2C2で3回実験し、52.8・53.5・52.1 MPaを得ました。平均は52.8MPaです。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 予測値 | 53.6 MPa |
| 信頼区間(95%) | 49.23 〜 57.97 MPa |
| 確認実験の平均(3回) | 52.8 MPa |
| 判定 | 区間内 ✅ |
実測値は信頼区間に収まりました。加法モデルが成り立っており、要因効果図から読み取った最適条件は採用してよい、と判断できます。
タグチメソッドのように利得で管理する場合は、再現率もあわせて見ます。予測利得6.3MPaに対し実測利得は52.8 − 47.3 = 5.5MPa。
\[ \text{再現率} = \frac{5.5}{6.3} \times 100 = 87.3\% \]
実務では再現率がおおむね7割を超えていれば良好とされます。ただし数値の基準は業界や特性によって幅があるので、社内で過去の案件と比べる形で運用するほうが現実的です。
⭐ 区間が広すぎて判定にならないことがある
ここで見落とされがちな問題があります。この例の信頼区間の幅は±4.37MPa。改善幅である予測利得6.3MPaの69%に相当します。
つまり実測値が49.3MPaでも「区間内」と判定されます。それは現行平均47.3からほとんど改善していない値です。判定が甘すぎる。
原因は誤差の自由度が2しかないことです。L9の4列のうち3列を因子で埋めたため、誤差に残ったのは1列だけ。自由度2のt値は4.30と大きく、区間が一気に広がります。
| 誤差の自由度 φe | t値(両側5%) | 区間の半幅 |
|---|---|---|
| 2 | 4.303 | ±4.37 |
| 4 | 2.776 | ±2.82 |
| 8 | 2.306 | ±2.34 |
自由度を2から4に増やすだけで区間は3分の2に縮みます。対策は2つ。直交表に因子を詰め込みすぎず空き列を2列以上残すか、各行を2回ずつ繰り返して測定するかです。因子が4つ以上あってL9に空き列を残せないなら、L18やL27への変更を検討してください。
確認実験の繰り返し数 \( r \) を増やす手もありますが、効きは限定的です。上の式で \( 1/n_{eff} = 0.78 \) に対し \( 1/r \) は r=3 で0.33、r=6にしても0.17。全体はあまり縮みません。効くのは本実験側の設計です。
予測が外れたときに疑うこと
実測値が信頼区間から外れたら、次の順で原因を探します。
1. 交互作用の見落とし
最も多い原因です。加法モデルは各因子の効果が独立に足し算できることを前提にしています。金型温度を上げた効果が保圧の水準によって変わるなら、この前提は崩れます。実測値が予測を下回る形で外れたときは、まず交互作用を疑ってください。
対処は、疑わしい2因子の組み合わせだけを取り出した2×2の実験を追加し、交互作用図を描くことです。線が平行でなければ交互作用があります。
2. 誤差の過小評価
空き列に本当は効果のある因子が紛れ込んでいると、誤差分散が実際より大きく出て区間が広がります。逆に測定を同じ日・同じ作業者に固めていると、日間差や個人差が誤差に入らず、区間が狭くなりすぎます。ロット間のばらつきを含めた誤差になっているかを確認してください。
3. 水準の設定と再現条件
設定値と実際の値がずれていないか。金型温度を80℃に設定しても、実測が72℃なら別の実験です。確認実験では設定値ではなく実測値を記録してください。原材料ロットが本実験と変わっていないかも確認します。
外れたからといって実験全体が無駄になるわけではありません。「加法モデルでは説明できない」という情報が得られたので、次は交互作用を割り付けた計画に進みます。3水準直交表で交互作用を見る手順が参考です。
よくある質問
Q. 確認実験は何回繰り返せばよいですか?
A. 3回以上が目安です。1回だと偶然のばらつきなのか予測のずれなのかを分けられません。ただし繰り返し数を増やしても信頼区間はあまり縮まないので、5回を超えて増やす価値は小さいと考えてください。区間を狭めたいなら本実験の誤差自由度を増やすほうが効きます。
Q. 最適条件が直交表の行にすでに含まれていた場合も確認実験は必要ですか?
A. 予測の検証としては不要ですが、再現性の確認としては行う価値があります。その行は1回しか測定していないため、たまたま高い値が出た可能性を否定できないからです。目的が「予測の妥当性」から「値の再現性」に変わる点を報告書で明記してください。
Q. 予測値より実測値のほうが高かった場合はどう扱いますか?
A. 信頼区間に収まっていれば問題ありません。区間の上側に外れた場合も加法モデルの前提が崩れている状態なので、原因を調べます。良い方向に外れたからと放置すると、条件を変えたときに再現しません。
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まとめ
- 直交表で求めた最適条件は実測値ではなく予測値。実験した行に含まれていないことが多い
- 予測値は加法モデルで計算する。Excelでは AVERAGEIF の足し算から全体平均の2倍を引く
- 判定は目分量ではなく信頼区間で行う。有効反復数 \( n_{eff} = N/(1+\sum\phi) \) を使う
- 誤差の自由度が2しかないと区間が改善幅の7割まで広がり、判定が機能しない
- 外れたときはまず交互作用を疑う
まとめると、最適条件が直交表の外側に出たなら確認実験は必須、内側にあるなら再現性の確認として任意、という使い分けです。そして区間を意味のある幅に保ちたいなら、確認実験の回数ではなく本実験の空き列を増やしてください。
この記事で扱った直交表の割り付けそのものについては直交表の早見表|L4〜L27の選び方と一覧で、SN比を使った最適化の流れはタグチメソッド(ロバスト設計)の基礎で解説しています。あわせてご確認ください。


