この記事でわかること
- ブリネル・ロックウェル・ビッカースの原理と使い分け
- ビッカース硬さとロックウェル硬さの計算、試験片の厚さとくぼみの間隔の目安
- 硬さの換算表の値を合否の判定に使ってはいけない理由と、複数の点を測る意味
📌 前提知識:測定誤差と有効数字|データの信頼性を確保する基礎を読んでいると理解しやすくなります
焼入れした軸の図面に「HRC 58〜62」とあり、外注先の検査成績書には「HV 650」と書かれていました。単位の違う数字をどう比べればよいのか、換算表で読み替えてよいのか。社内には硬さ試験機が1台ありますが、どの試験で測るべきかもはっきりしません。
硬さ試験は、硬い圧子を材料に押し込み、できたくぼみの大きさや深さから硬さを求める試験です。試験の種類ごとにくぼみの大きさが違い、向いている品物も違います。この記事では、3つの試験の原理と使い分けから始めて、計算の仕方、試験片の厚さとくぼみの間隔の目安、換算と測り方の注意までを、計算の例で確かめます。
硬さ試験を使う場面
硬さ試験は、材料や部品がどれだけ硬いかを数字で確かめる試験です。次のような場面で使います。
- 焼入れ・焼戻しなどの熱処理の結果を確かめるとき。図面の硬さの範囲に入っているかを、部品ごとやロットごとに見ます
- 材料の受入検査で、ミルシートの値どおりの材料かを確かめるとき
- 表面硬化した部品や溶接部の断面で、硬さがどう変わるかを調べるとき
引張試験のように試験片を壊さなくても、小さなくぼみ1つで済むのが硬さ試験の強みです。その代わり、くぼみの場所や数、試験片の厚さを誤ると、すぐに値が狂います。
ブリネル・ロックウェル・ビッカースの違い
新潟県工業技術総合研究所の技術資料をもとに、3つの試験を比べます。
| 試験 | 圧子 | 求め方 | くぼみの大きさ | 向いている品物 |
|---|---|---|---|---|
| ブリネル(HB・HBW) | 超硬合金の球 | くぼみの直径を測って計算 | 最大5mm程度と大きい | 鍛造品・鋳物など、材料の平均的な硬さ |
| ロックウェル(HRC・HRB など) | ダイヤモンドの円錐、または球 | くぼみの深さを試験機が自動で測る | コンマ数mmと小さい | 熱処理した部品の表面の硬さ。操作が簡単 |
| ビッカース(HV) | ダイヤモンドの四角錐 | 正方形のくぼみの対角線を顕微鏡で測って計算 | 最大0.5mm程度 | 表面硬化した材料・めっき・溶接部の断面の硬さの分布 |
同じ資料は、硬さの値は「くぼみができた部分の平均的な硬さ」だとまとめています。くぼみが大きいブリネルは材料の平均を、くぼみが小さいビッカースは狭い場所の違いを見るのに向く、という使い分けです。ビッカースは小さなくぼみを正確に測るため、測る面をほぼ鏡面に研磨しておくのが前提です。
ビッカース硬さの計算
ビッカース硬さは、押し込んだ力をくぼみの表面積で割った値です。対角線の長さの平均を d(mm)、試験力を F(kgf)とすると、次の式で求めます。
\[
\mathrm{HV} \approx \frac{1.8544\,F}{d^2}
\]
試験力10kgf(HV10)で、くぼみの2本の対角線が0.300mm と0.304mm だった場合を計算します(測定値は説明のための例です)。
\[
d = \frac{0.300 + 0.304}{2} = 0.302\ \text{mm}, \qquad
\mathrm{HV} = \frac{1.8544 \times 10}{0.302^2} = 203.3
\]
Excel では、試験力をB1、対角線をB2・B3に入れて =1.8544*B1/((B2+B3)/2)^2 です。結果は「203 HV10」のように、試験力を添えて書きます。2本の対角線が大きく違うときは、測る面が傾いているか、材料の向きによる違いが出ていないかを確かめます。
ロックウェル硬さの計算
ロックウェル硬さは、くぼみの直径ではなく深さで求めます。まず小さな力(初試験力)で圧子を当ててゼロの位置を決め、大きな力を加えてから初試験力に戻し、そのときの押し込み深さの増え方 h(mm)から硬さを計算します。試験機が自動で表示するので、現場で使いやすい試験です。
よく使う C スケール(HRC:ダイヤモンドの円錐・試験力150kgf)では、深さ0.002mm ごとに1ずつ硬さが下がります。
\[
\mathrm{HRC} = 100 – \frac{h}{0.002}
\]
Excel では、深さをB2に入れて =100-B2/0.002 です。逆に HRC 60 のときの深さは (100−60)×0.002=0.080mm です。深いほど柔らかい、という向きを押さえておけば十分です。
試験片の厚さとくぼみの間隔の目安
硬さ試験でよくある失敗が、試験片が薄すぎることと、くぼみ同士・くぼみと端が近すぎることです。薄いと下の台の硬さを拾い、近すぎると前のくぼみで硬くなった部分や端の影響を拾います。
規格を引いた解説(Wikipedia)にある目安を、先ほどの例に当てはめます。
| 項目 | 目安 | 例での値 |
|---|---|---|
| ビッカース:くぼみの中心どうしの間隔(鋼・銅合金、ISO 6507-1) | 3d を超える | 3×0.302=0.906mm 超 |
| ビッカース:くぼみの中心から端まで(鋼・銅合金、ISO 6507-1) | 2.5d 以上 | 2.5×0.302=0.755mm 以上 |
| ビッカース:試験片の厚さ(解説にある経験則。規格の値は本文で確認) | くぼみの対角線の2.5倍より厚い | 厚さ 0.755mm より厚い |
| ロックウェル:試験片の厚さ | くぼみの深さの10倍以上 | HRC 60 なら 0.080×10=0.80mm 以上 |
軽金属では間隔をもっと広く取る、米国の規格では値が違う、など細かい決まりは規格ごとに違います。社内の試験の手順書を作るときは、使う規格の本文で確かめてください。ロックウェルでは、丸い軸の曲面で測ると値が低めに出るので、平らな面で測るか、曲面の補正を使います。
換算表の値で合否を決めない
冒頭の「図面は HRC、成績書は HV」のように、違う試験の値を比べたくなる場面はよくあります。換算表を使えば読み替えはできますが、溶接の研究機関 TWI は、硬さの種類どうしに誰もが使う直接の関係はなく、換算は近似であって絶対ではないと書いています。換算表は、たくさんの測定値を並べて作った経験的なものだからです。
硬さから引張強さを見積もる式も同じです。Wikipedia の解説では、引張強さ(MPa)はおよそ HV(MPa に換算した値)÷c で、c は材料によって2〜4の幅があります。c が2か4かで、見積もりは2倍違います。
現場では次のように使い分けます。
- 合否は、図面に書かれた試験(HRC なら HRC)で測った値で決める
- 換算した値は「おおよその見当」として、成績書には換算値であることと換算の方法を書く
- 引張強さが要求される材料は、硬さからの換算ではなく、ミルシートの引張試験の値で確かめる
1点ではなく複数の点を測る
硬さはくぼみができた場所の値なので、場所によってばらつきます。熱処理した軸の表面を5か所測り、次の値になったとします(説明のための例です)。図面は HRC 58〜62 です。
| 測定位置 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
|---|---|---|---|---|---|
| HRC | 58.2 | 59.1 | 58.7 | 57.9 | 58.6 |
平均は58.5で範囲に入っていますが、4番目の57.9は下限の58を下回っています。標準偏差は0.46、最大と最小の差(範囲)は1.2です。Excel では、値をB2〜B6に入れて平均が =AVERAGE(B2:B6)、標準偏差が =STDEV.S(B2:B6)、範囲が =MAX(B2:B6)-MIN(B2:B6) です。
平均だけを報告すると、この1点は見えなくなります。図面の範囲を「平均が入ればよい」のか「全点が入ること」なのかは、顧客との取り決めで決まります。決まっていないなら、全点を記録しておき、下限を割った位置(焼きむらの可能性)を調べるのが安全です。
よくある質問
Q. ロックウェルとビッカースはどう使い分けますか?
A. 熱処理した部品の表面の硬さを手早く測るならロックウェル、断面の硬さの分布や薄い表面硬化層、小さな部品ならビッカースです。ビッカースは測る面を鏡面に近く研磨しておくのが前提です。
Q. HV の値を HRC に換算して合否を判定してよいですか?
A. 避けます。換算表は経験的に作られた近似で、絶対ではありません。合否は図面に書かれた試験で測った値で決め、換算値を使うときは換算値であることを明記します。
Q. 試験片はどのくらいの厚さが必要ですか?
A. 目安は、ロックウェルでくぼみの深さの10倍以上、ビッカースでくぼみの対角線の2.5倍より厚いことです。HRC 60 なら深さ0.080mm なので0.80mm 以上が必要です。細かい値は使う規格で確かめます。
Q. 何か所測ればよいですか?
A. 規格や顧客との取り決めに従いますが、1点だけでは場所によるばらつきが見えません。複数の点を測り、平均だけでなく全点の値と最小値を記録しておくと、焼きむらなどに気づけます。
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まとめ
- 硬さ試験は、圧子を押し込んだくぼみから硬さを求める。ブリネルは大きなくぼみで材料の平均、ロックウェルは深さで手早く、ビッカースは小さなくぼみで狭い場所を見る
- ビッカースは HV≈1.8544F/d²。例では 203 HV10。ロックウェルの HRC は 100−h/0.002
- くぼみの間隔は 3d 超、端まで 2.5d 以上(ISO 6507-1・鋼)。ロックウェルの厚さは深さの10倍以上
- 違う試験への換算は近似。合否は図面の試験で測った値で決める
- 1点ではなく複数の点を測り、平均だけでなく全点と最小値を記録する
熱処理の表面はロックウェル、断面や薄い層はビッカース、鋳物や鍛造品の平均はブリネル、という使い分けです。まずは自社の成績書に、試験の種類と試験力、測った点の数が書かれているかを見直してみてください。
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