この記事でわかること
- ミルシートの意味と、書かれている項目の見方
- 検査証明書の種類と、裏書きミルシートの意味
- 成分を規格と照らす方法と、複数ロットの値から余裕を見る計算(Excel対応)
📌 前提知識:検査の種類|受入・工程内・出荷の違いと使い分けで、受入検査の位置づけを押さえておくと理解しやすくなります
シャフトの材料に使う丸棒(S45C)が入荷しました。納品書と一緒に、成分の数字がびっしり並んだ1枚の書類が付いています。ミルシートです。受入の担当者は「規格に入っているか」を見て判を押しますが、毎回すべて合格で、本当に見るべきところがどこなのか、はっきりしません。
ミルシートは、材料の品質を確かめるための一次情報です。読み方を押さえれば、1枚ごとの合否だけでなく、ロットを並べたときの余裕まで見えてきます。この記事では、ミルシートの項目と種類を整理し、成分を規格と照らす例と、10ロット分の値から工程能力を求める使い方を追います。
ミルシートを使う場面
ミルシートとは、鋼材メーカー(ミル=製鉄所)が、出荷する材料の検査結果を証明する書類です。材料証明書、鋼材検査証明書とも呼ばれます。次のような場面で使います。
- 受入検査のとき。注文した規格・材質の材料が届いたか、成分や強度が規格に入っているかを確かめます
- トレーサビリティのとき。製品に使った材料のロット(溶鋼番号)をたどり、不具合が出たときに材料側を調べる手がかりにします
- 客先への提出のとき。自動車部品などでは、使った材料のミルシートの提出を求められることがあります
NG例(△)として、ミルシートがあるからといって、自社での確認をすべて省くのは危険です。ミルシートの値は、材料のロットを代表する検査結果で、届いた1本1本を測ったものではありません。取り違えや表示の誤りを防ぐ最低限の確認は、受入検査で残します。
ミルシートに書かれていること
| 項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 規格・材質記号 | 注文した規格(例:JIS G 4051 の S45C)と一致しているか |
| 寸法・数量・重量 | 納品書・現品と一致しているか |
| 溶鋼番号(ヒートNo.) | 材料のロットを表す番号。現品の表示と一致しているか、記録に残しているか |
| 化学成分 | C・Si・Mn・P・S などの値が規格の範囲に入っているか |
| 機械的性質 | 引張強さ・降伏点(耐力)・伸びなどが規格を満たしているか(規格で定められている材料の場合) |
| 熱処理・検査の条件 | 熱処理の有無や試験の方法が注文の条件と合っているか |
いちばん大事なのは溶鋼番号です。同じ溶鋼番号の材料は、同じ炉で一度に作られた、品質のそろったまとまり(ロット)です。現品の表示とミルシートの溶鋼番号を突き合わせて記録しておかないと、あとで材料をたどれません。材料と製品のロットのひもづけ方はトレーサビリティとは|ロット管理と追跡の仕組みで解説しています。
検査証明書の種類
ミルシートは、誰が・どんな検査をして証明したかで種類が分かれます。鋼材では JIS G 0415(鋼及び鋼製品-検査文書)や、欧州規格の EN 10204 の区分がよく使われます。
| 区分(EN 10204) | 中身 |
|---|---|
| 2.1 | 注文どおりであることの宣言だけで、検査結果は載らない |
| 2.2 | 製造工程で行った検査の結果を載せる(その注文品を対象にした検査ではない) |
| 3.1 | 注文品そのものを検査した結果を、製造部門から独立したメーカーの検査担当者が証明する |
| 3.2 | 3.1 に加えて、買い手の代表者や第三者も検査結果を確認する |
一般に「ミルシート」と呼ばれるのは、注文品の検査結果が載った 3.1 にあたるものが多いです。重要な部品の材料では、どの区分の証明書が必要かを注文の段階で決めておきます。
例題|S45Cの成分を規格と照らす
冒頭の丸棒(S45C)のミルシートの化学成分を、JIS G 4051 の規格と照らします。
| 成分 | ミルシートの値(%) | 規格(%) | 判定 |
|---|---|---|---|
| C(炭素) | 0.45 | 0.42〜0.48 | 合格 |
| Si(ケイ素) | 0.22 | 0.15〜0.35 | 合格 |
| Mn(マンガン) | 0.75 | 0.60〜0.90 | 合格 |
| P(リン) | 0.018 | 0.030以下 | 合格 |
| S(硫黄) | 0.012 | 0.035以下 | 合格 |
Excelでは、B列に値、C列に下限、D列に上限を入れて、=IF(AND(B2>=C2,B2<=D2),"合格","不合格") で判定できます。上限だけの成分は、下限の欄に0を入れておきます。
10ロット分を並べて余裕を見る
1枚ずつの合否だけでは、材料のばらつきは見えません。ある工場の過去10回の入荷(溶鋼番号が違う10ロット)を想定して、ミルシートの炭素の値を並べてみます。
0.44/0.45/0.43/0.46/0.45/0.44/0.47/0.45/0.44/0.46(%)
どれも規格(0.42〜0.48)に入っていて、10回とも合格です。ところが、平均と標準偏差を求めて工程能力指数を出すと、違う姿が見えます。
\[ C_p = \frac{0.48 – 0.42}{6 \times 0.01197} = 0.835 \qquad C_{pk} = \frac{0.449 – 0.42}{3 \times 0.01197} = 0.807 \]
Excelでは、A2:A11 に値を入れて、平均を =AVERAGE(A2:A11)、標準偏差を =STDEV.S(A2:A11) で求めます。\( C_p \) は =(0.48-0.42)/(6*STDEV.S(A2:A11))、\( C_{pk} \) は =MIN(0.48-AVERAGE(A2:A11),AVERAGE(A2:A11)-0.42)/(3*STDEV.S(A2:A11)) です。
\( C_{pk} \) は0.807で、目安の1.33に遠く届きません。10回とも合格でも、材料のロットごとのばらつきは規格の幅いっぱいに近いということです。炭素量は焼入れ後の硬さに効くので、熱処理の条件が厳しい製品では、規格の端に近いロットで硬さが外れるおそれがあります。この場合は、材料メーカーと炭素量の狙いを狭める相談をするか、受入時にロットごとの値で熱処理の条件を調整する、といった手を考えます。なお、ミルシートの炭素量は小数第2位までの表記が多く、ばらつきに対して丸めの影響が無視できないので、この Cpk は目安として見ます。
工程能力指数の計算の詳しい手順は工程能力指数(Cp・Cpk)の計算とExcelでの求め方、1.33の根拠は工程能力指数の目安一覧|Cp1.33が合格基準とされる根拠で解説しています。
裏書きミルシートとは
材料は、鋼材メーカーから商社や加工業者を経て届くことがよくあります。途中で切断や加工をした場合、元のミルシートのコピーに、商社などが「原本と相違ない」ことや自社で加工したことを書き添え、社名・日付・印を入れて渡します。これを裏書き(裏書)ミルシートと呼びます。
裏書きミルシートを受け取ったら、元の溶鋼番号と現品の表示がたどれるかを確かめます。切断した材料に溶鋼番号が転記されていないと、ミルシートと現品の対応がつかなくなります。
よくある失敗
- 規格・材質記号を照合しない。成分が範囲内でも、注文と違う規格の材料では意味がありません
- 溶鋼番号を記録しない。不具合が出たとき、どの材料ロットを使ったかたどれなくなります
- 1枚ずつの合否しか見ない。例題のように、全ロット合格でも余裕が少ないことがあります。ロットを並べて傾向を見ます
- 材料の切り替えを工程に伝えない。新しい材料ロットや材料メーカーの変更は、工程の条件に影響することがあります
材料メーカーやロットが変わるときの管理は4M変更管理とは|変更届の基準と初物確認で解説しています。
よくある質問
Q. ミルシートと検査成績書の違いは何ですか?
A. ミルシートは、鋼材メーカーが出す検査成績書にあたり、「鋼材検査証明書」や「検査成績書」と呼ぶ会社もあります。一方、部品メーカーが自社で作った製品について出す検査成績書は、寸法や外観の検査結果が中心で、証明する対象が違います。どちらも、受け取った側が規格と照らして確認する点は同じです。
Q. ミルシートはどうすれば手に入りますか?
A. 材料を注文するときに、ミルシートの添付を条件として伝えるのが基本です。商社経由で買う場合は、裏書きミルシートになることが多いので、必要な証明書の区分と、溶鋼番号を現品に残してもらうことをあわせて伝えておきます。
Q. ミルシートがあれば受入検査は要りませんか?
A. 成分や強度の試験をミルシートで代用することは多いですが、規格・材質・寸法・溶鋼番号が現品と一致しているかの確認は残します。ミルシートの値はロットを代表する値で、届いた品物そのものの取り違えまでは防げないためです。
Q. ミルシートの値はどう記録すればよいですか?
A. 溶鋼番号ごとに、主な成分と機械的性質を表計算に1行ずつ残しておくのがおすすめです。例題のように、ロットを並べて平均やばらつきを見られるようになり、材料メーカーとの品質の話し合いにも使えます。
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まとめ
- ミルシートは、鋼材メーカーが材料の成分や機械的性質の検査結果を証明する書類
- 規格・材質記号、溶鋼番号(ヒートNo.)、化学成分、機械的性質を、注文と現品に照らして確かめる
- 証明書には区分があり、注文品そのものの検査結果を独立した担当者が証明するのが EN 10204 の 3.1
- 例題では、10ロットとも合格なのに炭素量の Cpk は0.807で、規格に対する余裕は小さかった
まとめると、1枚ごとの合否を見るなら規格との照合、材料のばらつきを見るならロットを並べた工程能力指数、という使い分けです。まずは手元のミルシートから溶鋼番号と主な成分を表に写し、ロットを並べてみてください。
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※ 例題のミルシートの値と10ロットのデータは、解説のための仮想の値です。S45C の規格値は JIS G 4051 によりますが、使うときは最新の JIS 規格票で確認してください。


