この記事でわかること
- 3σ管理図が1σのずれを見逃す理由
- CUSUM管理図の計算手順とパラメータk・hの決め方(Excel対応)
- EWMA管理図の計算手順と管理限界の求め方(Excel対応)
- 同じデータで3つの方法が何点目に反応するかの比較
📌 前提知識:管理図(X-R管理図)の作り方と見方を読んでいると理解しやすくなります
射出成形の寸法を管理図で見ています。点はすべて管理限界の内側にあり、異常判定ルールにも引っかかっていません。それなのに、後工程からは「最近どうも寸法が上寄りだ」と言われます。グラフを眺めると、確かに中心線より上に張り付いている気がする。でも管理図は何も教えてくれません。
これは管理図の使い方が間違っているわけではなく、
3σ管理図が苦手とする種類の変化だからです。工具の摩耗や材料ロットの切り替わりのように、じわじわと小さく平均がずれる変化は、1点1点を見る管理図ではほとんど捕まりません。
この記事では、そうした小さなシフトを狙って検出する2つの管理図、CUSUM管理図とEWMA管理図の作り方を、同じ15点のデータで比較しながら解説します。
CUSUM・EWMA管理図を使う場面
この2つを使うのは、次のような変化を早く見つけたいときです。
- 工具やドリルの摩耗で寸法がじわじわ動くとき。1回あたりの変化は小さくても、方向が一定です
- 材料ロットや作業者が替わって平均が少し動いたとき。ばらつきは変わらず中心だけがずれます
- 1個ずつしか測れず群が組めないとき。個々の測定値の管理図は感度が低いので、補う目的で使います
逆に、突発的な大きな異常を捕まえるのは3σ管理図のほうが得意です。CUSUMとEWMAは過去のデータを引きずるので、大きく飛んだ1点への反応はむしろ遅くなります。NG例(△)として、この2つで3σ管理図を置き換えるのは避けてください。
併用するのが実務の使い方です。
どの管理図を選ぶかの全体像は
管理図の選び方にまとめています。CUSUMとEWMAは、そこで選んだ管理図に足す位置づけです。
例題|3σ管理図が反応しないデータ
工程平均 \( \mu_0 = 50.0 \)、標準偏差 \( \sigma = 1.0 \) で安定していた工程があります。15点を1個ずつ測定しました。7点目から工程平均が1σ(=1.0)だけ上にずれています。
| No. |
測定値 |
No. |
測定値 |
No. |
測定値 |
| 1 |
50.2 |
6 |
49.7 |
11 |
51.6 |
| 2 |
49.5 |
7 |
51.2 |
12 |
51.1 |
| 3 |
50.4 |
8 |
50.8 |
13 |
51.3 |
| 4 |
49.8 |
9 |
51.4 |
14 |
50.7 |
| 5 |
50.1 |
10 |
50.9 |
15 |
51.5 |
まず普通の管理図で見ます。1個ずつの測定値なので管理限界は次のとおりです。
\[ UCL = \mu_0 + 3\sigma = 50.0 + 3 \times 1.0 = 53.0 \]
Excelでは中心線に3σを足すだけです。
=50 + 3*1 → 53.0
最大値は11点目の51.6です。
53.0には遠く、15点すべてが管理限界の内側に収まります。3σ管理図は最後まで何も警報を出しません。工程平均が1σずれているにもかかわらずです。
理由は単純で、1σのずれが起きても1点が3σ線を超える確率は約2.3%しかないからです。平均して40点ほど待たないと1点も超えません。
3シグマの法則が持つ「めったに外れない」という性質が、ここでは裏目に出ます。
CUSUM管理図の作り方
CUSUM(Cumulative Sum・累積和)は、基準値からのずれを足し込んでいく方法です。1点ごとの大小ではなく、
ずれが同じ向きに続いているかを見ます。
上振れを見る片側CUSUMは次の式で計算します。
\[ C_i^{+} = \max\left[\,0,\ C_{i-1}^{+} + (x_i – (\mu_0 + k))\,\right] \]
\( k \) は
参照値(slack)と呼び、検出したいシフト量の半分に取ります。今回は1σのシフトを狙うので \( k = 0.5\sigma = 0.5 \) です。つまり50.5を引いた残りを足し込み、マイナスになったら0に戻します。0に戻すのは、下振れの記憶を持ち越さないためです。
Excelでは、C2に初期値0を入れ、C3から次の式を下へコピーします。
=MAX(0, C2 + (B3 - 50.5))
計算結果です。
| No. |
C⁺ |
No. |
C⁺ |
No. |
C⁺ |
| 1 |
0 |
6 |
0 |
11 |
3.4 |
| 2 |
0 |
7 |
0.7 |
12 |
4.0 |
| 3 |
0 |
8 |
1.0 |
13 |
4.8 |
| 4 |
0 |
9 |
1.9 |
14 |
5.0 |
| 5 |
0 |
10 |
2.3 |
15 |
6.0 |
判定は
決定間隔 \( h \) と比べます。慣行として \( h = 5\sigma = 5.0 \) を使います。
6点目までは0のままです。工程が安定している間はずれが打ち消し合うので、累積和は溜まりません。7点目から値が増え始め、
14点目で5.0に達して警報となります。シフトの発生が7点目なので、8点で検出できた計算です。
EWMA管理図の作り方
EWMA(Exponentially Weighted Moving Average・指数重み付き移動平均)は、直近のデータを重く、古いデータを軽く扱いながら平均を更新していく方法です。
\[ z_i = \lambda x_i + (1 – \lambda) z_{i-1} \]
\( \lambda \) は0〜1の重みで、小さいほど過去を長く引きずり、小さなシフトをよく拾います。実務では0.2前後がよく使われます。初期値 \( z_0 \) には工程平均50.0を入れます。
=0.2*B3 + 0.8*C2
管理限界は点ごとに変わります。最初のうちは平均するデータが少ないので幅が狭く、点が増えるにつれ一定値に近づきます。
\[ UCL_i = \mu_0 + L\sigma\sqrt{\frac{\lambda}{2-\lambda}\left[1-(1-\lambda)^{2i}\right]} \]
=50 + 3*1*SQRT(0.2/1.8*(1-0.8^(2*A3)))
\( L = 3 \) とすると、十分に点が溜まったときの管理限界は次の値に落ち着きます。
\[ UCL_\infty = 50 + 3 \times 1.0 \times \sqrt{\frac{0.2}{1.8}} = 50 + 3 \times 0.3333 = 51.0 \]
=50 + 3*1*SQRT(0.2/1.8) → 51.0
3σ管理図の53.0に対して
51.0です。幅が半分以下になっているぶん、小さなずれに反応します。
| No. |
z |
UCL |
No. |
z |
UCL |
| 6 |
49.944 |
50.965 |
11 |
50.805 |
50.996 |
| 7 |
50.195 |
50.978 |
12 |
50.864 |
50.998 |
| 8 |
50.316 |
50.986 |
13 |
50.951 |
50.999 |
| 9 |
50.533 |
50.991 |
14 |
50.901 |
50.999 |
| 10 |
50.606 |
50.994 |
15 |
51.021 |
50.999 |
7点目から z が上がり続け、
15点目で51.021となり管理限界50.999を超えて警報です。14点目の50.901は惜しいところで止まっています。
⭐ 同じデータで4つの方法を比べる
同一データに対して、何点目で気づけたかをまとめます。
| 方法 |
警報が出た点 |
シフトからの遅れ |
| 3σ管理図(個々の値) |
警報なし |
— |
| 連続9点ルール |
15点目 |
9点 |
| EWMA(λ=0.2, L=3) |
15点目 |
9点 |
| CUSUM(k=0.5σ, h=5σ) |
14点目 |
8点 |
差をどう読むかがポイントです。
3σ管理図だけが最後まで沈黙しているのに対し、他の3つは検出できています。CUSUMが1点だけ早いものの、EWMAや連続9点ルールとの差は実務的にはわずかです。
つまり導入の価値は「CUSUMかEWMAか」の選択より、
1点ごとの判定だけに頼るのをやめることにあります。
管理図の異常判定ルールの連続9点ルールを真面目に運用しているだけでも、かなりの部分は拾えます。そのうえで、より早い検出が要るならCUSUMやEWMAを足す、という順序で考えてください。
警報が出たあとの調査の進め方は
管理限界を超えたときの対応手順と同じです。CUSUMやEWMAで警報が出たときは、突発ではなく持続的なずれなので、
4Mのうち「じわじわ変わるもの」から先に当たると早く見つかります。工具の摩耗、治具のゆるみ、材料ロットの切り替わりなどです。
パラメータの決め方
CUSUMの \( k \) は、検出したいシフト量 \( \delta\sigma \) の半分に取るのが基本です。1σのシフトを狙うなら \( k = 0.5\sigma \)、0.5σなら \( k = 0.25\sigma \) です。\( h \) は4σまたは5σがよく使われ、大きくするほど誤報が減り検出は遅くなります。
EWMAの \( \lambda \) は0.05〜0.25の範囲で選びます。小さくするほど小さなシフトに強くなりますが、大きな変化への反応は鈍くなります。0.2は「小さいシフトも見たいが、大きい変化も見逃したくない」という中庸の設定です。
| 狙うシフト |
CUSUMのk |
EWMAのλ |
| 0.5σ(かなり小さい) |
0.25σ |
0.05〜0.10 |
| 1.0σ(標準的) |
0.5σ |
0.2 |
| 2.0σ以上(大きい) |
1.0σ |
0.4以上、または3σ管理図 |
いずれの場合も、\( \mu_0 \) と \( \sigma \) は
工程が安定していた期間のデータから推定した値を使ってください。異常が混ざった期間から求めた σ を使うと、幅が広がって検出力が落ちます。
よくある質問
Q. CUSUMとEWMA、どちらを選べばよいですか?
A. 検出性能はほぼ互角なので、運用しやすいほうで構いません。EWMAは「平滑化した線をそのままグラフに描く」ので現場の人が直感的に読みやすく、CUSUMは累積和という抽象的な量を見るため説明が要ります。一方でCUSUMはシフトの発生時点を推定しやすいという利点があります。見せる相手が現場ならEWMA、解析するのが技術者ならCUSUM、という選び方で実用上は困りません。
Q. 下振れも見たい場合はどうしますか?
A. CUSUMは下側の累積和 C⁻ を別に計算します。式は \( C_i^{-} = \max[0,\ C_{i-1}^{-} + ((\mu_0 – k) – x_i)] \) で、同じ h と比べます。上下2本を並べて描くのが一般的です。EWMAは管理限界を上下対称に引くだけなので、下側限界を追加すれば済みます。
Q. 群を組んだデータにも使えますか?
A. 使えます。個々の値 \( x_i \) を群平均 \( \bar{x}_i \) に置き換え、σ を \( \sigma/\sqrt{n} \) に置き換えてください。群を組むと1点あたりの感度が上がるため、そもそも3σ管理図でも検出しやすくなります。CUSUMやEWMAの恩恵が大きいのは、群が組めず1個ずつ測るしかない場合です。
まとめ
- 3σ管理図は1σ程度の小さなシフトをほとんど検出できない。今回の例では15点すべて管理限界内だった
- CUSUMは基準値からのずれを累積し、決定間隔hを超えたら警報。k=0.5σ・h=5σが標準
- EWMAは直近を重く見た移動平均で、λ=0.2なら管理限界は3σ管理図の半分以下に狭まる
- 同一データでCUSUMは14点目、EWMAと連続9点ルールは15点目に反応した
- 突発的な異常は3σ管理図が得意なので、置き換えではなく併用する
まとめると、工具摩耗のようにじわじわ動く工程にはCUSUMかEWMAを足し、突発的な飛びを見る役割は3σ管理図に残す、という使い分けです。そしてどちらを入れる前にも、連続9点ルールが実際に運用されているかをまず確認してください。そこが抜けたまま新しい管理図を足しても効果は限定的です。
この記事の前提となる管理限界の引き方は
X-s管理図とは|作り方とX-R管理図の使い分けで、工程のばらつきそのものの評価は
工程能力指数(Cp・Cpk)で解説しています。あわせてご確認ください。