この記事でわかること
- X̄-s管理図の仕組みと、標準偏差sで群内ばらつきを管理する意味
- A3・B3・B4係数を使った管理限界の計算(Excel対応)
- X-R管理図との使い分け(群のサイズで選ぶ)
- 作り方の手順と数値例
📌 前提知識:標準偏差・分散とX-R管理図の作り方を知っていると理解がスムーズです
工程を管理図で監視するとき、多くの教科書はまずX-R管理図を教えます。ところが、1回の測定で10個、20個とまとめて測る工程では、範囲Rよりも標準偏差sでばらつきを見るX̄-s管理図のほうが適しています。
X̄-s管理図は、群の平均をX̄管理図で、群内のばらつきをs管理図で同時に監視する道具です。仕組みはX-R管理図とほとんど同じで、ばらつきの指標が範囲Rから標準偏差sに変わっただけです。
この記事では、X̄-s管理図の管理限界の求め方と、X-R管理図との使い分けを、Excelの数値例で解説します。
X̄-s管理図を使う場面
X̄-s管理図とX-R管理図は、どちらも計量値(長さ・重さなど連続量)の管理図です。選ぶ基準は群の大きさ(サブグループのサンプル数n)にあります。
- 群のサイズが大きいとき(目安 n≧10):範囲Rは最大値と最小値しか使わず情報を捨てるため、全データを使う標準偏差sのほうが正確。X̄-s管理図を使う。
- 群のサイズが小さいとき(目安 n≦9):計算が簡単な範囲Rで十分。X-R管理図を使う。
- 自動計測で大きなnが手軽に取れるとき:手計算の手間が問題にならないので、sを使うX̄-s管理図が向く。
逆に注意したい点もあります。
(△)X̄-s管理図は計量値専用です。不良率や不良個数など計数値には使えません(その場合はp管理図・np管理図)。
(△)管理図はまず「ばらつき(s管理図)」が安定していることを確認してから、平均(X̄管理図)を判断します。順序が逆だと誤った結論を招きます。
X̄-s管理図とは
X̄-s管理図は、2枚1組の管理図です。
- X̄管理図:各群の平均 X̄ をプロットし、工程の中心(平均)が動いていないかを見る。
- s管理図:各群の標準偏差 s をプロットし、群内のばらつきが安定しているかを見る。
X-R管理図の「R(範囲)」が「s(標準偏差)」に置き換わっただけ、と考えると分かりやすいです。範囲Rはデータの端2点しか見ませんが、標準偏差sは群内の全データを使うため、ばらつきをより正確に捉えられます。群のサイズが大きいほど、この差が効いてきます。
管理限界の求め方(A3・B3・B4)
まず各群の平均 X̄ と標準偏差 s を計算し、それらの平均(総平均 \( \bar{\bar{X}} \) と平均標準偏差 \( \bar{s} \))を求めます。管理限界は、この \( \bar{\bar{X}} \) と \( \bar{s} \) に係数を掛けて計算します。
X̄管理図の管理限界:
\[ UCL,\ LCL = \bar{\bar{X}} \pm A_3\,\bar{s} \]
s管理図の管理限界:
\[ UCL = B_4\,\bar{s}, \quad LCL = B_3\,\bar{s} \]
中心線はそれぞれ \( \bar{\bar{X}} \) と \( \bar{s} \) です。係数A3・B3・B4は群のサイズnで決まり、管理図用の係数表から読み取ります。主な値は次のとおりです。
| 群のサイズ n | A3 | B3 | B4 |
|---|---|---|---|
| 4 | 1.628 | 0 | 2.266 |
| 5 | 1.427 | 0 | 2.089 |
| 10 | 0.975 | 0.284 | 1.716 |
n=5以下ではB3が0になり、s管理図の下側管理限界(LCL)は引きません。ばらつきは小さいぶんには問題にならないためです。nが10以上になるとB3が正の値を持ち、下側限界も意味を持ちます。
作り方の手順
- データを群(サブグループ)に分ける。1群あたりn個を、20〜25群ほど集める。
- 各群の平均 X̄ を
=AVERAGE(範囲)、標準偏差 s を=STDEV.S(範囲)で計算する。 - 全群の X̄ の平均(\( \bar{\bar{X}} \))と、s の平均(\( \bar{s} \))を求める。
- 係数表から n に対応する A3・B3・B4 を読み、管理限界を計算する。
- X̄管理図・s管理図に点を打ち、管理限界と比べて異常を判定する(管理図の異常判定ルールを参照)。
数値例
ある部品の寸法を、1群5個(n=5)で25群集めたとします。計算の結果、総平均 \( \bar{\bar{X}} = 100.0 \)mm、平均標準偏差 \( \bar{s} = 2.0 \)mm になったとします。n=5なので A3=1.427、B3=0、B4=2.089 です。
X̄管理図の管理限界は、
\[ UCL = 100.0 + 1.427 \times 2.0 = 102.85 \]
\[ LCL = 100.0 – 1.427 \times 2.0 = 97.15 \]
s管理図の管理限界は、
\[ UCL = 2.089 \times 2.0 = 4.18, \quad LCL = 0 \times 2.0 = 0 \]
n=5なのでB3=0、s管理図の下側限界は引きません。あとは各群の X̄ と s をこの範囲と照らし、外れた群があれば工程を調べます。
X-R管理図との使い分け
| 観点 | X-R管理図 | X̄-s管理図 |
|---|---|---|
| ばらつきの指標 | 範囲 R(最大−最小) | 標準偏差 s |
| 向く群のサイズ | 小さい(n≦9目安) | 大きい(n≧10目安) |
| 計算の手間 | 簡単(暗算しやすい) | やや大きい(Excel向き) |
| ばらつきの捉え方 | 端2点のみ | 全データを使う |
小さな群を手計算で扱う現場ではX-R管理図が今も主流です。一方、自動計測で大きなnが取れるなら、情報を無駄にしないX̄-s管理図が有利です。どちらを選ぶかの全体像は管理図の選び方で整理しています。
QC検定での問われ方とミニ例題
QC検定では、X̄-s管理図とX-R管理図の使い分け、係数A3・B3・B4を使った管理限界の計算が問われます。とくに群のサイズが大きいときはsを使うという判断がポイントです。
よく問われるポイントは次の3つです。
- 群のサイズが大きい(n≧10目安)ならX̄-s、小さいならX-R
- X̄管理図の管理限界は \( \bar{\bar{X}} \pm A_3\bar{s} \)
- s管理図の管理限界は \( B_4\bar{s} \)(上)・\( B_3\bar{s} \)(下)。n≦5ではB3=0で下側なし
ミニ例題:n=5の群で、総平均 \( \bar{\bar{X}} = 50.0 \)、平均標準偏差 \( \bar{s} = 1.0 \) だった。X̄管理図の上方・下方管理限界を求めよ(A3=1.427)。
解答:\( UCL = 50.0 + 1.427 \times 1.0 = 51.43 \)、\( LCL = 50.0 – 1.427 \times 1.0 = 48.57 \)。中心線は50.0です。s管理図はB4=2.089より上側限界 \( 2.089 \times 1.0 = 2.09 \)、n=5なので下側限界はありません。
よくある質問(FAQ)
Q. なぜ範囲Rではなく標準偏差sを使うのですか?
A. 範囲Rは最大値と最小値の2点しか使いません。群のサイズが大きいと途中のデータの情報を捨ててしまいます。標準偏差sは全データを使うため、大きな群ではばらつきをより正確に管理できます。
Q. s管理図の下側管理限界(LCL)がないのはなぜですか?
A. 群のサイズが小さい(n≦5)とB3が0になるためです。ばらつきは小さいこと自体は問題ではないので、下限を引かない扱いです。nが大きくなるとB3が正の値を持ち、下限も意味を持ちます。
Q. X̄管理図とs管理図、どちらを先に見ますか?
A. 先にs管理図(ばらつき)を確認します。ばらつきが不安定なままだと平均の管理限界も信頼できないためです。sが安定してからX̄を判断します。
まとめ
X̄-s管理図は、大きな群のばらつきを正確に管理するための計量値管理図です。要点を整理します。
- X̄管理図で平均、s管理図で群内ばらつきを同時に監視する
- 管理限界は \( \bar{\bar{X}} \pm A_3\bar{s} \)、s管理図は \( B_4\bar{s} \)・\( B_3\bar{s} \)
- 群のサイズが大きい(n≧10目安)ならX̄-s、小さいならX-R
- 標準偏差sは全データを使うぶん、範囲Rより情報を捨てない
使い分けの一言:小さな群で手軽にならX-R、大きな群で正確にならX̄-s。ばらつきの指標が違うだけで、管理図の読み方は同じです。
基本となるX-R管理図はX-R管理図の作り方、管理図全体の選び方は管理図の選び方で解説しています。工程能力の評価とあわせるなら工程能力指数も役立ちます。

