この記事でわかること
- 二項分布・ポアソン分布それぞれの定義と確率計算手順(Excel対応)
- 不良品個数・欠陥数など製造現場での使い分け基準
- ポアソン近似・正規近似をいつ使うかの判断基準
📌 前提知識:正規分布の基礎を読んでいると、近似の議論が理解しやすくなります
抜き取り検査で20個中3個が不良品だった。これは偶然の範囲内なのか、工程に問題が起きているのか——そう判断するには、不良品の個数がどんな確率で発生するかを定量化する必要があります。
このような「n回試行中k回成功(不良)する確率」を扱うのが二項分布です。一方、ロール品1000mあたりの欠陥数や1日の機械故障件数など「単位あたりの発生回数」を扱うのがポアソン分布。どちらも製造業の品質管理で頻繁に使う離散確率分布です。
この記事では2つの分布の計算手順とExcel関数、そして使い分けの基準を解説します。
二項分布・ポアソン分布を使う場面
2つの分布はどちらも「0以上の整数値をとる離散確率分布」ですが、対象にする状況が異なります。
| 分布 | 使う場面 | 前提条件 |
|---|---|---|
| 二項分布 | n回試行中k回成功する確率(抜き取り検査の不良品個数など) | 試行回数nが固定・成功確率pが一定・各試行が独立 |
| ポアソン分布 | 単位当たりk件発生する確率(ロール品の欠陥数・機械故障件数など) | 発生がランダムかつ独立・平均発生率λが一定・発生確率が小さい |
二項分布が適している場面
試行回数nを固定して実施する検査・実験に使います。「20個抜き取って不良品が何個出るか」「100個ロット中3個以上不良なら返品するかどうか」といった判断に使います。各製品が独立に不良率pで不良品になるモデルです。
製造業での主な用途は抜き取り検査計画(OC曲線の作成)と、p管理図・np管理図の管理限界の計算です。
ポアソン分布が適している場面
単位時間・単位長さ・単位面積あたりの発生件数を扱うときに使います。「ロール品1000mあたりの表面欠陥数」「1日の設備停止件数」など、発生が稀でランダムな事象の分布です。
製造業での主な用途はu管理図・c管理図の管理限界の計算と、欠陥発生率の推定です。
二項分布とは
二項分布(Binomial Distribution)は、n回の独立な試行で各回の成功確率がpのとき、k回成功する確率を表します。
確率の計算式
n回試行中k回成功する確率 P(X=k) は次の式で求めます:
\[
P(X = k) = \binom{n}{k} p^k (1-p)^{n-k}
\]
ここで \( \binom{n}{k} = \dfrac{n!}{k!(n-k)!} \) はn個からk個を選ぶ組合せの数(二項係数)です。
二項分布の期待値(平均)と分散は次の式で求まります:
\[
E[X] = np, \quad V[X] = np(1-p)
\]
ExcelではBINOM.DIST関数が対応します:
=BINOM.DIST(k, n, p, FALSE) ← P(X=k) の確率 =BINOM.DIST(k, n, p, TRUE) ← P(X≤k) の累積確率
例題:不良率2%の工程から20個抜き取り検査
不良率 p=0.02、抜き取り個数 n=20 のとき、不良品数 X の確率を求めます。
P(X=0)(不良品が1個も出ない確率):
\[
P(X=0) = \binom{20}{0} \times 0.02^0 \times 0.98^{20} = 0.98^{20} = 0.6676
\]
P(X=1)(不良品がちょうど1個の確率):
\[
P(X=1) = \binom{20}{1} \times 0.02^1 \times 0.98^{19} = 20 \times 0.02 \times 0.6812 = 0.2725
\]
P(X≥1)(1個以上不良品が出る確率):
\[
P(X \geq 1) = 1 – P(X=0) = 1 – 0.6676 = 0.3324
\]
Excelでの計算:
=BINOM.DIST(0, 20, 0.02, FALSE) → 0.6676(P(X=0)) =1-BINOM.DIST(0, 20, 0.02, TRUE) → 0.3324(P(X≥1))
不良率2%の工程では、20個抜き取ると約33%の確率で1個以上の不良品が検出されます。言い換えると、3回に1回は不良品が出る抜き取り検査であることがわかります。
ポアソン分布とは
ポアソン分布(Poisson Distribution)は、単位当たりの平均発生回数が λ(ラムダ)のとき、k回発生する確率を表します。
確率の計算式
平均発生率 λ のとき、k 回発生する確率 P(X=k) は次の式で求めます:
\[
P(X = k) = \frac{e^{-\lambda} \lambda^k}{k!}
\]
ここで e は自然対数の底(e ≈ 2.71828)、k! は k の階乗です。
ポアソン分布の特徴として、期待値と分散が等しくなります:
\[
E[X] = \lambda, \quad V[X] = \lambda
\]
ExcelではPOISSON.DIST関数が対応します:
=POISSON.DIST(k, λ, FALSE) ← P(X=k) の確率 =POISSON.DIST(k, λ, TRUE) ← P(X≤k) の累積確率
例題:平均2個の欠陥があるロール品
1000mあたりの表面欠陥数の平均が λ=2.0 個のとき、欠陥数 X の確率を求めます。
e^(-2) = 0.1353 を使って計算します:
\[
P(X=0) = \frac{e^{-2} \times 2^0}{0!} = e^{-2} = 0.1353
\]
\[
P(X=1) = \frac{e^{-2} \times 2^1}{1!} = 2 \times 0.1353 = 0.2707
\]
\[
P(X=2) = \frac{e^{-2} \times 2^2}{2!} = \frac{4}{2} \times 0.1353 = 0.2707
\]
P(X=1) と P(X=2) が等しくなるのは λ=2 のときの特徴です。累積確率と3個以上の確率:
\[
P(X \leq 2) = 0.1353 + 0.2707 + 0.2707 = 0.6767
\]
\[
P(X \geq 3) = 1 – P(X \leq 2) = 1 – 0.6767 = 0.3233
\]
Excelでの計算:
=POISSON.DIST(0, 2, FALSE) → 0.1353(P(X=0)) =POISSON.DIST(2, 2, TRUE) → 0.6767(P(X≤2)) =1-POISSON.DIST(2, 2, TRUE) → 0.3233(P(X≥3))
平均2個のロール品では、約32%の確率で3個以上の欠陥が発生します。管理限界を3個に設定したとき、正常な工程でもアラートが頻繁に発生することがわかります。
二項分布とポアソン分布の使い分けと近似
2つの分布のパラメータと特性を比較します。
| 二項分布 | ポアソン分布 | |
|---|---|---|
| 使う場面 | n回中k回成功 | 単位当たりk件発生 |
| パラメータ | n(試行回数)、p(成功確率) | λ(平均発生回数) |
| 期待値 | np | λ |
| 分散 | np(1-p) | λ(期待値と等しい) |
| Excel関数 | BINOM.DIST | POISSON.DIST |
ポアソン近似
n が大きく(n ≥ 20)、p が小さい(p ≤ 0.05)とき、二項分布は λ=np のポアソン分布で近似できます。
例:n=100, p=0.02 → λ=100×0.02=2.0 として POISSON.DIST を使う。
計算量が多い二項係数の計算を省略でき、nが非常に大きい(数百以上)場合に特に有効です。
正規近似
np ≥ 5 かつ n(1-p) ≥ 5 のとき、二項分布は平均 np・標準偏差 √(np(1-p)) の正規分布で近似できます。サンプルサイズの計算では、この近似を使うことが多くあります。
どの近似が適切かは nとpの大きさによります。n が小さい場合(n<20)は BINOM.DIST を直接使うのが確実です。
まとめ
二項分布・ポアソン分布のキーポイントをまとめます:
- 二項分布は「n回試行中k回成功」する確率を扱う。試行回数nと成功確率pが必要
- ポアソン分布は「単位当たりk件発生」する確率を扱う。平均発生率λのみが必要
- Excelでは BINOM.DIST(二項)・POISSON.DIST(ポアソン)で計算できる
- n≥20かつp≤0.05のとき、二項分布をλ=npのポアソン分布で近似できる
- ポアソン分布は期待値と分散が等しい(どちらもλ)という特徴を持つ
使い分けをひとことでまとめると、「試行回数が決まって不良個数を数えるなら二項分布、長さや面積あたりの欠陥数を数えるならポアソン分布」です。
二項分布を管理図に応用した内容は、p管理図・np管理図の作り方と見方で詳しく解説しています。ポアソン分布の応用はu管理図・c管理図の記事を参照してください。
確率分布の基礎として正規分布との違いを整理したい場合は、正規分布とは|確率密度関数とExcelで確率を計算する手順も合わせてご確認ください。

