この記事でわかること
- PDPC法の意味と、使う場面・使わない場面
- スタートからゴールまでの流れに対応策を書き込む6つの手順
- 対策の前後で納期に間に合う確率を比べる計算(Excel対応)
- FMEA・アローダイアグラムとの違い
📌 前提知識:新QC七つ道具とは|7手法の使い方と図の作り方で7つの手法の全体像を押さえておくと理解しやすくなります
新製品の初回出荷まで、あと30日の予定です。客先との約束は35日後。日程表の上では5日の余裕があります。ところが過去の立ち上げを振り返ると、金型の修正で寸法が出なかったり、工程能力が基準に届かなかったりと、毎回どこかでつまずいていました。
つまずいてから対策を考えると、そのたびに数日ずつ失います。どこでつまずきそうかを先に洗い出し、「そうなったらこうする」を計画に書き込んでおくのがPDPC法です。この記事では、書き方の手順と、先回りの対策で納期の確率がどれだけ変わるかを計算で確かめます。
PDPC法を使う場面
PDPC法は、計画が予定どおり進まない事態を前もって想定し、分かれ道ごとに対応策を書き込んでおく手法です。PDPCは Process Decision Program Chart の略で、新QC七つ道具の1つです。次のような場面で使います。
- 初めての取り組みで、先が読み切れないとき。新製品の立ち上げ、新しい設備の導入、新しい仕入先への切り替えなどです
- 失敗したときの損失が大きいとき。納期遅れが客先のラインを止める、やり直しに大きな費用がかかる、といった計画です
- 関係者が多く、誰がいつ動くかを決めておきたいとき。想定外が起きたときの判断を、その場の相談ではなく事前の取り決めにできます
NG例(△)として、毎日同じことを繰り返す作業の管理には向きません。決まった工程で起きうる不具合を点数で洗い出すなら、FMEAとは|RPNの計算とワークシートの書き方・例のほうが合っています。PDPC法は、一度きりの計画を進める途中の「分かれ道」を扱う道具です。
書き方の6つの手順
手順の分け方は本によって少しずつ違いますが、ここでは次の6つで進めます。
- スタートとゴールを決める:「試作完了」から「初回出荷(35日以内)」のように、出発点と到達点を具体的に書く
- うまくいった場合の流れを書く:スタートからゴールまで、順調に進んだときのステップを矢印でつなぐ
- ステップごとに「うまくいかなかったら」を問う:各ステップで起こりうる想定外を挙げる。過去のトラブル記録や経験者の話が材料になる
- 分かれ道に対応策を書き込む:想定外が起きたときの回り道を矢印で描き、本線に戻るまでの手を決める
- 対応策そのものの失敗も考える:回り道でもうまくいかないときの次の手を、必要なところだけ書き足す
- 進めながら書き直す:実際に進んで分かったことを反映し、図を更新する
PDPC法では、とくに手順6が大切です。図は、計画を始める前に完成させて終わりではありません。状況が変わるたびに書き直し、その時点で見えている分かれ道に先回りし続けます。
手順4では、「起きたら考える」ではなく、起きる前にできる準備まで書くのがポイントです。たとえば「寸法が出なかったら金型を再修正する」だけでは、実際に起きたときに金型メーカーの予定が空いておらず、何日も待たされます。「再修正の枠を先に押さえておく」と書けば、起きる前に手が打てます。
作成例|初回出荷までのPDPC
冒頭の立ち上げを、うまくいった場合の流れ(手順2)で書くと、試作完了 → 金型修正 → 初期流動 → 客先の量産承認 → 初回出荷、の30日です。各ステップで「うまくいかなかったら」を問い(手順3)、過去の立ち上げの記録から起こりやすさと遅れの日数を見積もりました。ここでの数字は、説明のために作った想定例です。
| 分かれ道(想定外) | 起こりやすさ | 何もしないときの遅れ |
|---|---|---|
| ① 金型修正で寸法が出ない | 0.3 | 6日(金型メーカーの空き待ち+再修正) |
| ② 初期流動で工程能力が基準に届かない | 0.2 | 4日(原因を調べて条件を見直す) |
| ③ 客先の量産承認が遅れる | 0.1 | 5日(書類の差し戻し) |
それぞれの分かれ道に、先回りの対応策を書き込みました(手順4)。
| 分かれ道 | 先回りの対応策 | 起きたときの遅れ |
|---|---|---|
| ① 寸法が出ない | 再修正の枠を金型メーカーと先に押さえておく | 6日 → 3日 |
| ② 工程能力が届かない | 全数検査で選別しながら出荷する暫定の手順を、客先と事前に合意しておく | 4日 → 0日(検査の費用はかかる) |
| ③ 承認が遅れる | 提出前に客先の担当者と書類を事前確認する | 5日 → 3日 |
②の対応策は、遅れをなくす代わりに選別の費用がかかります。PDPC法では、こうした「何と引き換えに守るか」も分かれ道の上で決めておきます。工程能力の基準と量産承認の中身はPPAPとは|提出レベルとCpk1.67の根拠、選別しながら立ち上げる期間の管理は初期流動管理とは|量産立ち上げ後の検査強化と解除基準で解説しています。
対策の前後で納期の確率を比べる
先回りの対策にどれだけ意味があるかを、納期(35日・余裕5日)に間に合う確率で比べてみます。3つの想定外は互いに関係なく起きる、と仮定します。
何もしない場合
余裕は5日なので、遅れの合計が5日以内なら間に合います。①が起きると単独でも6日遅れるので、①が起きた時点で間に合いません。②と③が両方起きても9日なので間に合いません。間に合うのは次の3通りです。
- どれも起きない:0.7 × 0.8 × 0.9 = 0.504
- ②だけ起きる(4日遅れ):0.7 × 0.2 × 0.9 = 0.126
- ③だけ起きる(5日遅れ):0.7 × 0.8 × 0.1 = 0.056
合計すると、間に合う確率は 0.686(68.6%)です。3回に1回は約束を守れない計画でした。
先回りの対策を入れた場合
対策後の遅れは①3日・②0日・③3日です。5日を超えるのは、①と③が両方起きて6日遅れるときだけです。その確率は 0.3 × 0.1 = 0.03 なので、間に合う確率は 1 − 0.03 = 0.970(97.0%)に上がります。
平均でどれだけ遅れるか(遅れの期待値)も比べます。遅れの期待値は、起こりやすさ×遅れの日数を足し合わせたものです。
\[ E[\text{遅れ}] = \sum (\text{起こりやすさ} \times \text{遅れの日数}) \]
Excelでは、B列に起こりやすさ、C列に遅れの日数を入れて、SUMPRODUCT関数で求めます。
- 遅れの期待値:
=SUMPRODUCT(B2:B4,C2:C4) - どれも起きない確率:
=(1-B2)*(1-B3)*(1-B4)
何もしない場合は 0.3×6+0.2×4+0.1×5 = 3.1日、対策後は 0.3×3+0.2×0+0.1×3 = 1.2日です。起こりやすさは1つも下げていません。起きたときの遅れを先に縮めておくだけで、納期の確率は68.6%から97.0%まで上がる。これがPDPC法で先回りしておく価値です。期待値の考え方は期待値の求め方|確率で重みづけした平均をExcelでで解説しています。
なお、ここでの起こりやすさと日数は説明用の想定で、実務では過去の記録から見積もります。PDPC法で大事なのは数字の精度より、どの分かれ道に先回りするかを決めることです。数字は、対策の順番を話し合う材料として使います。
FMEA・アローダイアグラムとの違い
PDPC法と似た場面で使う手法が2つあります。
| 手法 | 対象 | 問い |
|---|---|---|
| PDPC法 | 一度きりの計画の進み方 | この先どこでつまずき、そのときどうするか |
| FMEA | 製品や工程の故障モード | 何が壊れ、どれだけ重大で、どう防ぐか |
| アローダイアグラム | 作業の順序と日数 | 最短で何日かかり、どの作業が遅れられないか |
量産立ち上げなら、製品と工程の不具合はFMEAで、日程はアローダイアグラムで、計画全体の想定外はPDPC法で、という分担です。立ち上げの品質活動の全体像はAPQPとは|5フェーズとPPAPの関係で整理しています。
よくある失敗
- 想定外を書き出して終わる。リスクの一覧はできても、「そのときどうするか」がないと計画は変わりません。分かれ道ごとに対応策まで書きます
- 対応策が「起きたら考える」になっている。起きてから手配するものは、起きる前に押さえておけないかを考えます
- すべての分かれ道を同じ重さで扱う。起こりやすさと遅れの大きさで、先回りする所を絞ります。例では、遅れの期待値を最も減らすのは①(0.9日減)で、①だけに先回りしても間に合う確率は90.2%まで上がります
- 最初に作った図を更新しない。進めるうちに新しい分かれ道が見えてきます。週ごとの打合せなどで図を開き、書き直します
よくある質問
Q. PDPC法とFMEAの違いは何ですか?
A. 対象が違います。FMEAは製品や工程の故障モードを洗い出し、重大さや起こりやすさを点数で評価して防ぐ手法です。PDPC法は、一度きりの計画が進む途中の想定外を時系列で洗い出し、分かれ道ごとの対応策を決めておく手法です。量産立ち上げでは両方を使い分けます。
Q. 起こりやすさの数字がわからないときはどうしますか?
A. 無理に数字を出さなくてもPDPC法は使えます。「起こりやすい・起こりにくい」「遅れが大きい・小さい」の2段階で分けるだけでも、先回りする所は絞れます。過去の記録があれば、それをもとに大まかな数字を置くと、対策の効果を話し合いやすくなります。
Q. 図はいつ書き直せばよいですか?
A. 計画の節目ごとと、想定外が実際に起きたときです。たとえば金型修正が終わった時点で、その分かれ道は消え、次の初期流動の分かれ道がより具体的に見えてきます。そのたびに図を書き直し、次の先回りを決めます。
Q. QC検定ではどう問われますか?
A. 新QC七つ道具の1つとして、ほかの手法との使い分けが問われやすいところです。出題イメージ(オリジナル)は「事態の進展とともにいろいろな結果が想定される問題について、望ましい結果に至るプロセスを定める手法はどれか」のように、目的から手法名を選ばせる形が典型です。7つの手法の違いは新QC七つ道具の総論記事で整理しています。
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まとめ
- PDPC法は、計画が予定どおり進まない事態を前もって想定し、分かれ道ごとに対応策を書き込んでおく新QC七つ道具の手法
- 手順は、スタートとゴール → うまくいった流れ → 「うまくいかなかったら」 → 対応策 → 対応策の失敗 → 進めながら書き直す、の6つ
- 対応策は「起きたら考える」ではなく、起きる前にできる準備まで書く
- 例では起こりやすさを1つも下げずに、起きたときの遅れを縮めるだけで、納期に間に合う確率が68.6%から97.0%、遅れの期待値が3.1日から1.2日になった
- 図は一度作って終わりではなく、節目ごとに書き直す
まとめると、繰り返す工程の不具合ならFMEA、日程の組み立てならアローダイアグラム、一度きりの計画の想定外ならPDPC法、という使い分けです。次の立ち上げでは、日程表の横にPDPCの図を1枚置いてみてください。
確率で原因をたどる考え方はFTAとは|故障の木の作り方と確率計算の例で解説しています。あわせてご確認ください。


