この記事でわかること
- アローダイアグラムの書き方のルールと、ダミー作業の使い方
- 最早・最遅結合点時刻とクリティカルパスの求め方(Excel対応)
- 余裕日数(トータルフロートとフリーフロート)の読み方
- 費用の安い作業から日程を縮める計算
📌 前提知識:新QC七つ道具とは|7手法の使い方と図の作り方で7つの手法の全体像を押さえておくと理解しやすくなります
新製品の量産立ち上げまで、あと35日しかありません。金型の設計と製作、設備の手配、治具の製作、試作トライと、やることは並んでいます。ところが各担当に日数を聞いて足し合わせると、どう見ても間に合いそうにありません。
本当に間に合わないのか、それとも並行して進められる作業があるのか。間に合わないなら、どの作業を急がせればいちばん安く済むのか。こうした問いに、作業の順序と日数を図にして答えるのがアローダイアグラムです。この記事では、書き方のルールから日程の計算、日程を縮める費用の計算までを順に追います。
アローダイアグラムを使う場面
アローダイアグラムは、作業を矢印で、作業の区切りを番号付きの丸(結合点)で表し、作業の前後関係と日数からプロジェクト全体の日程を計算する手法です。新QC七つ道具の1つで、PERT図とも呼ばれます。次のような場面で使います。
- 作業の前後関係が入り組んでいるとき。「AとBが両方終わらないとCに入れない」といった関係が多い計画で、全体の最短日数を知りたい場面です
- 納期に間に合わせるために、どの作業を急がせるか決めたいとき。遅れが許されない作業(クリティカルパス)が分かります
- 日程を縮める費用を比べたいとき。残業や外注の追加費用を、どの作業にかければ効率がよいかを計算できます
NG例(△)として、作業が一本道で順番に進むだけの計画なら、アローダイアグラムは要りません。日数を足せば終わりです。また、日々の進捗を人に見せる用途には、横棒で期間を示すガントチャートのほうが直感的です。アローダイアグラムは前後関係の計算に、ガントチャートは進捗の見える化に向きます。
書き方のルールとダミー作業
アローダイアグラムには、計算を正しく行うための決まりがあります。
- 矢印1本が1つの作業。矢印の上に作業名、下に所要日数を書く
- 結合点には番号を振る。矢印の向きに沿って番号が大きくなるようにする
- 同じ2つの結合点の間に、矢印を2本引かない。区間の番号(1→2など)で作業を区別できなくなるため
- ループを作らない。後の作業から前の作業に戻る矢印があると、日程が決まらない
もう1つの道具がダミー作業です。点線の矢印で表し、所要日数は0です。作業ではなく「この作業が終わるまで次に進めない」という順序の制約だけを表します。たとえば「治具の製作は、設備の手配が終わり、かつ金型の設計も終わってから始める」という場合、金型設計の終わりの結合点から、治具製作の始まりの結合点へダミーを引きます。
例題|量産立ち上げの8作業
冒頭の量産立ち上げを、次の8作業(Dはダミー)で表します。
| 作業 | 内容 | 区間(前→後) | 所要日数 |
|---|---|---|---|
| A | 金型設計 | 1 → 2 | 10 |
| B | 設備の手配 | 1 → 3 | 14 |
| C | 金型製作 | 2 → 4 | 18 |
| D | ダミー(治具製作は金型設計の後) | 2 → 3 | 0 |
| E | 治具製作 | 3 → 5 | 9 |
| F | 試作トライ | 4 → 6 | 6 |
| G | 設備の据付・調整 | 5 → 6 | 7 |
| H | 初期流動 | 6 → 7 | 5 |
全作業の日数を単純に足すと69日ですが、並行して進められる作業があるので、実際の最短日数はもっと短くなります。
日程の計算|最早・最遅結合点時刻
手順1:最早結合点時刻(前から計算)
各結合点に、そこから始まる作業に最も早く取りかかれる日を求めます。結合点1を0日目とし、前から順に「前の結合点の時刻+作業日数」を計算します。入ってくる矢印が複数あるときは、大きいほうを取ります。すべての作業が終わらないと先に進めないからです。
- 結合点2:0+10=10
- 結合点3:Bから 0+14=14、ダミーDから 10+0=10 → 大きいほうの14
- 結合点4:10+18=28
- 結合点5:14+9=23
- 結合点6:Fから 28+6=34、Gから 23+7=30 → 34
- 結合点7:34+5=39
プロジェクト全体の最短日数は39日です。Excelでは、結合点の時刻をB列に並べ、入ってくる矢印が複数ある結合点を =MAX(B1+14,B2+0) のようにMAX関数で書きます。
手順2:最遅結合点時刻(後ろから計算)
今度は後ろから、全体を39日で終えるために、各結合点に遅くとも何日目までに到達しなければならないかを求めます。「後の結合点の時刻−作業日数」を計算し、出ていく矢印が複数あるときは小さいほうを取ります。
- 結合点7:39、結合点6:39−5=34
- 結合点5:34−7=27、結合点4:34−6=28
- 結合点3:27−9=18
- 結合点2:Cへ 28−18=10、ダミーDへ 18−0=18 → 小さいほうの10
- 結合点1:Aへ 10−10=0、Bへ 18−14=4 → 0
Excelでは、出ていく矢印が複数ある結合点を =MIN(C4-18,C3-0) のようにMIN関数で書きます。
手順3:クリティカルパスを特定する
最早と最遅の時刻が等しい結合点(1・2・4・6・7)を、作業日数ぴったりでつなぐ経路がクリティカルパスです。この例では A→C→F→H(10+18+6+5=39日)です。この経路上の作業が1日遅れると、全体が1日遅れます。
余裕日数|トータルフロートとフリーフロート
クリティカルパスにない作業には、遅れても全体に響かない余裕があります。余裕には2種類あります。
- トータルフロート(全余裕)=後の結合点の最遅時刻−前の結合点の最早時刻−作業日数。この日数までなら遅れても全体の完了日は変わらない
- フリーフロート(自由余裕)=後の結合点の最早時刻−前の結合点の最早時刻−作業日数。この日数までなら遅れても、次の作業の開始に影響しない
| 作業 | トータルフロート | フリーフロート |
|---|---|---|
| A・C・F・H | 0 | 0 |
| B(設備の手配) | 18−0−14=4 | 14−0−14=0 |
| E(治具製作) | 27−14−9=4 | 23−14−9=0 |
| G(設備の据付・調整) | 34−23−7=4 | 34−23−7=4 |
B・E・Gはそれぞれ4日のトータルフロートを持っていますが、この4日は3つの作業で共有しています。Bが4日遅れると、EとGの余裕は0に減ります。フリーフロートが0のBやEは、遅れればすぐ次の作業の開始がずれます。余裕を担当ごとに配るときは、トータルフロートを足し合わせないよう注意します。
日程を縮める|費用の安い作業から
納期は35日で、今の計画は39日です。4日縮める必要があります。各作業について、追加費用をかけて縮められる日数と、1日あたりの費用を調べました。
| 作業 | 縮められる日数 | 1日あたりの費用 | 方法 |
|---|---|---|---|
| A 金型設計 | 2日 | 40,000円 | 設計の応援を入れる |
| C 金型製作 | 4日 | 50,000円 | 外注に特急を依頼 |
| F 試作トライ | 2日 | 30,000円 | 休日に出勤してトライ |
| H 初期流動 | 1日 | 80,000円 | 検査員を増やす |
縮めるのはクリティカルパス上の作業だけです。それ以外を縮めても全体は短くなりません。そのうえで、1日あたりの費用が安い順に縮めます。
- 最も安いFを2日縮める(6万円)。A→C→F→Hは37日になる
- 次に安いAを2日縮める(8万円)。A→C→F→Hは35日になる
ここで、もう1つの経路 B→E→G→H を確かめます。14+9+7+5=35日で、こちらもちょうど35日です。4日の短縮で、B・E・Gの余裕4日を使い切ったわけです。合計14万円で、納期の35日に間に合います。
もし納期が34日なら、2本の経路を両方1日ずつ縮めなければなりません。A→C→F→H側は残るCかHを、B→E→G→H側は共通のHか、B・E・Gのどれかを縮めます。共通のHなら1回で両方が縮まるので、8万円で済む可能性があります。経路が並ぶと、縮める費用は急に上がります。
よくある失敗
- ダミーを入れ忘れて、前後関係が抜ける。「両方終わってから」の制約を図にしないと、実際より短い日程が出ます。作業ごとに「これが始まる前に終わっていなければならない作業は何か」を1つずつ確認します
- クリティカルパス以外の作業を急がせる。余裕のある作業に残業をかけても、全体の日程は1日も縮みません
- トータルフロートを担当ごとに足し算する。例題の4日はB・E・Gで共有しています。3人それぞれに「4日余裕がある」と伝えると、全員が使い切って遅れます
- 計画を1回作って終わりにする。作業が遅れたり早まったりしたら、時刻を計算し直します。クリティカルパスは途中で入れ替わることがあります
計画どおりに進まない場合の手を先に打っておくなら、同じ新QC七つ道具のPDPC法が向いています。量産立ち上げの管理全体の流れは初期流動管理とは|量産立ち上げ後の検査強化と解除基準で解説しています。
よくある質問
Q. アローダイアグラムとPERT図は同じものですか?
A. ほぼ同じものとして扱われます。PERTはもともと、作業日数のばらつきを見込んで日程を見積もる手法の名前で、その図がアローダイアグラムの形をしています。QC検定では、新QC七つ道具の「アローダイアグラム法」として出題されます。
Q. ガントチャートとの違いは何ですか?
A. ガントチャートは、作業ごとの期間を横棒で並べて、進捗を見やすくする図です。作業の前後関係は読み取りにくく、クリティカルパスの計算には向きません。計画はアローダイアグラムで立て、進捗の共有はガントチャートで行う、という使い分けが実務的です。
Q. ダミー作業の日数はいつも0ですか?
A. 0です。ダミーは作業ではなく、順序の制約だけを表す矢印なので、日数を持ちません。計算では、ダミーを通る経路も普通の作業と同じように比べます。例題でも、結合点3の最早時刻はダミーを通る経路(10)とBを通る経路(14)を比べて決めました。
Q. クリティカルパスは1本だけですか?
A. 1本とは限りません。例題でも、日程を35日まで縮めた時点で、A→C→F→HとB→E→G→Hの2本がクリティカルパスになりました。複数あるときは、どれか1本が遅れても全体が遅れるので、管理の手間が増えます。
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まとめ
- アローダイアグラムは、作業を矢印、区切りを結合点で表し、前後関係から最短日数を計算する新QC七つ道具の手法
- 最早結合点時刻は前から計算して入ってくる矢印の最大を、最遅結合点時刻は後ろから計算して出ていく矢印の最小を取る(ExcelではMAXとMIN)
- 例題の最短日数は39日、クリティカルパスはA→C→F→H。B・E・Gは4日の余裕を共有している
- 日程を縮めるときは、クリティカルパス上の1日あたりの費用が安い作業から。例題では14万円で35日になった
- 縮めると別の経路がクリティカルパスに加わり、それ以上縮める費用は急に上がる
まとめると、前後関係の入り組んだ計画の日程を計算するならアローダイアグラム、進捗を共有するならガントチャート、という使い分けです。納期に間に合わないときは、クリティカルパスの上で、1日あたりの費用が安い作業から縮めてください。
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