この記事でわかること
- 期待値の意味と、単純平均との違い
- SUMPRODUCT関数を使った期待値の計算手順(Excel対応)
- 期待値から分散・標準偏差を求める方法と、損失見積もりへの応用
📌 前提知識:平均・中央値・最頻値の求め方と使い分けを読んでいると理解しやすくなります
「この工程、1台あたり平均で何個の欠陥が出る?」と聞かれたとします。記録を見ると、欠陥ゼロの製品が大半で、ときどき1個、まれに2〜3個。
ここで「0個・1個・2個・3個」を単純に足して4で割ると1.5個。明らかに実態とかけ離れています。ゼロが圧倒的に多いという事実が無視されているからです。
正しくは、それぞれの値がどれくらいの確率で起こるかで重みをつけて平均します。これが期待値です。この記事では、期待値の計算手順と、実務での使いどころを整理します。
期待値を使う場面
期待値は、次のような場面で使います。
- 起こりやすさに差があるデータの平均を出したいとき(欠陥数・故障件数・手直し回数など)
- 損失やコストを見積もりたいとき(不良による損失額、検査コストの比較)
- 案を比較して意思決定したいとき(全数検査と抜取検査のどちらが得か)
単純平均と使い分ける基準はシンプルです。手元にある実測値をまとめるだけなら単純平均。確率や割合が分かっていて、これから起こることを見積もりたいなら期待値を使います。
期待値とは|確率で重みづけした平均
期待値は、起こりうる値 \(x_i\) に、その確率 \(p_i\) を掛けて全部足したものです。
\[E[X] = \sum x_i p_i\]
Excelでは、値の列と確率の列を掛けて合計するSUMPRODUCT関数が対応します:
=SUMPRODUCT(値の範囲, 確率の範囲)
確率の合計は必ず1です。ここが崩れていると計算が成り立たないので、=SUM(確率の範囲) で1になるか先に確認しておくと安全です。
例題|1台あたりの欠陥数の期待値
ある工程の実績から、製品1台あたりの欠陥数の分布が次のように分かっているとします。
| 欠陥数 x | 確率 p | x × p |
|---|---|---|
| 0個 | 0.70 | 0.00 |
| 1個 | 0.20 | 0.20 |
| 2個 | 0.08 | 0.16 |
| 3個 | 0.02 | 0.06 |
| 合計 | 1.00 | 0.42 |
右列を合計すると、期待値は0.42個です。
\[E[X] = 0 \times 0.70 + 1 \times 0.20 + 2 \times 0.08 + 3 \times 0.02 = 0.42\]
Excelなら、欠陥数がA2:A5、確率がB2:B5にあるとして次の1行で済みます:
=SUMPRODUCT(A2:A5,B2:B5) → 0.42
冒頭の単純平均1.5個と比べると、実態にずっと近い数字です。「1台あたり平均0.42個の欠陥が出る」と言えるので、100台生産すれば約42個の欠陥が見込まれる、という見積もりにつながります。
期待値は「実際に出る値」ではない
注意したいのは、0.42個という欠陥は現実には存在しないという点です。期待値は長期的に平均したときに落ち着く値であって、次の1台で観測される値ではありません。
実際にたくさん生産するほど、1台あたりの平均欠陥数がこの0.42に近づいていきます。この収束の仕組みそのものは、大数の法則として知られています。
期待値から分散・標準偏差を求める
期待値が分かると、ばらつきも計算できます。分散は「2乗の期待値 − 期待値の2乗」で求まります。
\[V[X] = E[X^2] – (E[X])^2\]
まず \(E[X^2]\) を計算します。Excelでは値を2乗した列を用意するか、SUMPRODUCT内で2乗します:
=SUMPRODUCT(A2:A5^2,B2:B5) → 0.70
先ほどの例で計算すると次のとおりです。
- \(E[X^2] = 0 \times 0.70 + 1 \times 0.20 + 4 \times 0.08 + 9 \times 0.02 = 0.70\)
- \(V[X] = 0.70 – 0.42^2 = 0.70 – 0.1764 = 0.5236\)
- 標準偏差 \(= \sqrt{0.5236} = 0.724\) 個
平均0.42個に対してばらつきが0.724個。平均より標準偏差のほうが大きく、欠陥数がゼロに偏った非対称な分布であることが数値からも読み取れます。分散・標準偏差の基本は標準偏差・分散の求め方で解説しています。
意思決定に使う|期待損失の見積もり
期待値がもっとも力を発揮するのが、金額に換算した比較です。
不良率2%の工程で、1個の不良が流出したときの損失(手直し・回収・信用低下)を5,000円とします。月産1,000個なら、月あたりの期待損失は次のとおりです。
1,000個 × 0.02 × 5,000円 = 100,000円/月
この10万円が、対策にかけてよい金額の上限を示します。月5万円の追加検査で不良流出を大幅に減らせるなら投資する価値があり、月15万円かかる対策なら見合いません。感覚ではなく金額で判断できます。
なお、不良数や欠陥数の確率そのものを理論分布から求めたい場合は、二項分布・ポアソン分布の求め方と使い分けが使えます。実績データがなくても、不良率とサンプル数から確率を計算できます。
まとめ
- 期待値=起こりうる値に確率を掛けて合計したもの(E[X]=Σx·p)
- Excelは
=SUMPRODUCT(値の範囲, 確率の範囲)の1行。確率の合計が1かを先に確認する - 期待値は「長期的に落ち着く平均」であって、次の1個で観測される値ではない
- 分散は V[X]=E[X²]−(E[X])² で求まる
- 金額に換算すると、対策にかけてよいコストの上限が見える
実測値をまとめるなら単純平均、これから起こることを見積もるなら期待値。この使い分けを押さえておけば、少ないデータからでも根拠のある判断ができます。母集団と標本の関係は母集団と標本とはで解説しています。さらに体系的に学びたい方向けに、レベル別のおすすめ書籍を統計学・実験計画法のおすすめ本まとめで紹介しています。

