月次の不良率データを折れ線グラフにしても、ギザギザしていてトレンドがつかみにくい——そういう場面で使うのが時系列分析の平滑化手法です。
この記事では、時系列データのトレンド把握と短期予測に使う2つの手法を解説します。
- 移動平均法:直近N期の平均でノイズを除く
- 指数平滑法:直近のデータほど重みを大きくして予測する
どちらもExcelの関数と四則演算だけで計算できます。
時系列データとは
時系列データは、時間の順序に意味があるデータです。月次不良率・日次生産量・週次在庫数など、製造現場では日常的に扱います。
通常の統計分析では「データの順序は問わない」のに対し、時系列分析では「前の値が次の値に影響する」ことを前提にします。そのため、t検定や分散分析とは別の手法が必要になります。
時系列データが持つ主な成分はこの4つです。
| 成分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| トレンド | 長期的な増加・減少傾向 | 年々不良率が上昇している |
| 季節性 | 一定周期で繰り返すパターン | 夏季に不良が増える |
| 循環 | 数年単位の波 | 景気サイクルに連動する受注量 |
| 不規則変動 | ランダムなノイズ | 突発的なトラブルによる不良急増 |
移動平均・指数平滑法は主に不規則変動を除いてトレンドを見やすくする目的で使います。
例題データ:月次不良率12ヶ月
ある工程の月次不良率(%)の12ヶ月データを使います。
| 月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 不良率(%) | 3.2 | 2.8 | 3.5 | 2.9 | 3.1 | 3.8 | 4.2 | 3.6 | 4.0 | 3.7 | 4.5 | 4.1 |
前半(1〜6月)は3%前後で推移し、後半(7〜12月)は4%前後に上昇しています。しかしデータが月ごとに上下するため、折れ線グラフだけではトレンドが見えにくい状態です。
移動平均法
移動平均法は、直近N期のデータの平均を順に計算してトレンドを滑らかにする手法です。\[ \text{MA}_t = \frac{y_t + y_{t-1} + \cdots + y_{t-N+1}}{N} \]
3期移動平均の計算
N=3(直近3ヶ月の平均)で計算します。3月以降から値が求まります。
| 月 | 実績(%) | 3期移動平均(%) | 計算式 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 3.2 | — | — |
| 2月 | 2.8 | — | — |
| 3月 | 3.5 | 3.167 | (3.2+2.8+3.5)÷3 |
| 4月 | 2.9 | 3.067 | (2.8+3.5+2.9)÷3 |
| 5月 | 3.1 | 3.167 | (3.5+2.9+3.1)÷3 |
| 6月 | 3.8 | 3.267 | (2.9+3.1+3.8)÷3 |
| 7月 | 4.2 | 3.700 | (3.1+3.8+4.2)÷3 |
| 8月 | 3.6 | 3.867 | (3.8+4.2+3.6)÷3 |
| 9月 | 4.0 | 3.933 | (4.2+3.6+4.0)÷3 |
| 10月 | 3.7 | 3.767 | (3.6+4.0+3.7)÷3 |
| 11月 | 4.5 | 4.067 | (4.0+3.7+4.5)÷3 |
| 12月 | 4.1 | 4.100 | (3.7+4.5+4.1)÷3 |
実績値のギザギザが平滑化され、6〜7月あたりから上昇トレンドが明確に見えるようになります。
期数Nの選び方
Nを大きくするほど平滑化が強まりますが、その分トレンドへの追随が遅れます。
| 期数N | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 3期 | 実績値に近い、変動に敏感 | 急な変化を早めに捉えたい |
| 5期 | バランスよく平滑化 | 月次データの標準的な用途 |
| 12期 | 強く平滑化、年間トレンドを把握 | 季節性を除いた長期トレンド確認 |
今回の5期移動平均(参考):5月以降で 3.100、3.220、3.500、3.520、3.740、3.860、4.000、3.980 となり、3期よりさらに滑らかなトレンドが確認できます。
指数平滑法
移動平均法はすべての期のデータを同じ重みで扱いますが、直近のデータほど重要という考え方もあります。指数平滑法はこの考えに基づき、過去に遡るほど指数的に小さくなる重みを使って予測値を更新します。\[ F_{t+1} = \alpha \cdot y_t + (1 – \alpha) \cdot F_t \]
\( F_{t+1} \):t+1期の予測値、\( y_t \):t期の実績値、\( \alpha \):平滑化係数(0 < α < 1)
この式は「前回の予測値を、今回の実績値で \( \alpha \) の割合だけ修正する」という操作です。
α=0.3での計算
初期値は1月の実績値(3.2)を使います。
| 月 | 実績 \( y_t \)(%) | 予測 \( F_t \)(%) | 計算式 |
|---|---|---|---|
| 1月 | 3.2 | 3.2000 | (初期値) |
| 2月 | 2.8 | 3.2000 | 0.3×3.2 + 0.7×3.2 |
| 3月 | 3.5 | 3.0800 | 0.3×2.8 + 0.7×3.2 |
| 4月 | 2.9 | 3.2060 | 0.3×3.5 + 0.7×3.08 |
| 5月 | 3.1 | 3.1142 | 0.3×2.9 + 0.7×3.206 |
| 6月 | 3.8 | 3.1099 | 0.3×3.1 + 0.7×3.1142 |
| 7月 | 4.2 | 3.3169 | 0.3×3.8 + 0.7×3.1099 |
| 8月 | 3.6 | 3.5818 | 0.3×4.2 + 0.7×3.3169 |
| 9月 | 4.0 | 3.5873 | 0.3×3.6 + 0.7×3.5818 |
| 10月 | 3.7 | 3.7111 | 0.3×4.0 + 0.7×3.5873 |
| 11月 | 4.5 | 3.7078 | 0.3×3.7 + 0.7×3.7111 |
| 12月 | 4.1 | 3.9455 | 0.3×4.5 + 0.7×3.7078 |
| 13月予測 | — | 3.992 | 0.3×4.1 + 0.7×3.9455 |
13月(来月)の予測不良率は約3.99%です。
平滑化係数αの選び方
αは予測精度を評価しながら決めます。代表的な評価指標はMAE(平均絶対誤差)です。\[ \text{MAE} = \frac{1}{n} \sum |y_t – F_t| \]
| α | MAE(2〜12月) | 特徴 |
|---|---|---|
| 0.3 | 0.373 | 変化への追随がゆっくり、安定的 |
| 0.5 | 0.379 | バランス型 |
今回のデータでは α=0.3 のほうがMAEが小さく、予測精度がやや高い結果になりました。一般的にデータの変動が小さい・トレンドが緩やかな場合はαを小さく、急な変化に追随させたい場合はαを大きく設定します。
Excelでの計算手順
移動平均
- A列に月、B列に実績値を入力する
- C列に3期移動平均を計算:C4セルに
=AVERAGE(B2:B4)と入力して下へコピー - または「データ分析」→「移動平均」で期間・出力範囲を指定して自動計算できる
指数平滑法
- D2セルに初期値(=B2)を入力
- D3セルに
=0.3*B2+0.7*D2と入力(αの値は任意に変更) - D3を下へコピーして全期間の予測値を計算
- 最終行の下のセルに同じ式を入力して翌月の予測値を得る
αの最適値を探す場合は、MAEをSUMPRODUCT関数で計算し、データ分析ツールの「ソルバー」でMAEを最小化するαを求める方法が効率的です。
移動平均法と指数平滑法の使い分け
| 手法 | 長所 | 短所 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 移動平均 | 直感的でわかりやすい | 翌期の予測に使いにくい。N期分のデータが必要 | トレンドの可視化・グラフ平滑化 |
| 指数平滑法 | 全データを使って予測値を更新できる。1期先予測が得やすい | αの調整が必要 | 短期予測・異常検知の基準値設定 |
管理図のコントロールライン更新や、生産計画の需要予測など「定期的に翌期の目標値を更新したい」用途では指数平滑法が扱いやすいです。トレンドを上司に見せる折れ線グラフを作りたいだけなら移動平均で十分です。
まとめ
- 時系列データのノイズを除いてトレンドを見るには移動平均法が手軽。期数Nを大きくするほど平滑化が強まる
- 翌期の予測値が必要なら指数平滑法。平滑化係数αを小さくすると安定的、大きくすると変化への追随が早い
- αはMAEを最小化する値を選ぶ。今回のデータではα=0.3で13月の不良率を3.99%と予測
- どちらもExcelのAVERAGE関数と四則演算だけで実装できる
工程管理との組み合わせ方として、X-R管理図でラインの状態を監視しながら、月次の不良率トレンドを指数平滑法で追う——という使い方が製造現場では実用的です。管理図については管理図(X-R管理図)の作り方と見方を参照してください。
また、時系列データに季節性がある場合(夏季に不良が増えるなど)は、季節調整を行ってからトレンドを分析する必要があります。データの全体像の確認にはヒストグラムを作る方法も合わせて活用してください。回帰分析でトレンドを数式で表したい場合は回帰分析のやり方と結果の見方を参照してください。

